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深刻な後遺症の危険も
~「暑さ負債」が熱中症の引き金に~

 今年の夏は体温を上回る最高気温が各地で報告され、熱中症の患者が増加した。当分、厳しい暑さが続く見通しだ。これまでの猛暑により体力が消耗し、疲労が蓄積しているため、屋内でクーラーをかけていても熱中症を発症してしまう危険が指摘されている。さらに高齢者や乳幼児にとっては、症状が改善しても臓器不全や認知機能障害などの重篤な後遺症を招いてしまう恐れがあることを忘れてはいけない。

猛烈な暑さの中、横断歩道を渡る人々=東京・銀座

猛烈な暑さの中、横断歩道を渡る人々=東京・銀座

 ◇「非労作性熱中症

 「熱中症というと、昼間に激しい運動や労働作業をして急激な脱水から意識低下、臓器不全に至る『労作性熱中症』に注目が集まりがちだ。この異常な暑さでは、この熱中症にはある程度の対策は取られてきたし、警戒もされてきた」

 熱中症対策に詳しい済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜医師はこう話す。その上で心配なのは、屋内作業や通常の家事、就寝中などの日常生活で発症する「非労作性熱中症」だという。

 「これまでの暑さによる疲労や不眠による体調不良、慢性的な脱水状態が蓄積した『暑さ負債』が危険水位に達して熱中症になってしまうことで、相対的に体力が弱い高齢者や乳幼児などはもちろん、元気そうに見える壮年世代も警戒が必要だ」

 谷口医師は「警戒すべき状況が変わってくる」と警鐘を鳴らす。就寝中はもちろん、日常の家事なども一人で済ませていることが多いだけに、体調が急変してもなかなか発見してもらえないという危険が加わるからだ。「特にこの夏のような異常な暑さでは、昨年までの経験は参考にならない。少しでもおかしいと思ったら家族に声を掛けるか、救急車を呼ぶくらいの対応が必要だ」と話す。

 ◇1~2時間ごとに水分補給

 非労作熱中症でも、基本的な対策はこれまでと変わらない。喉の渇きの有無にかかわらず、一定時間ごと、できれば1~2時間ごとに150ミリリットル前後の水分補給が望ましい。「起床時にはこの他に200ミリリットル前後を、体調が悪いと思えばゆっくりでいいからスポーツドリンクなどを500ミリリットル前後飲んでほしい。もしそれが飲めないようなら、救急車を呼ぶべき状態だと思ってほしい」

  カフェインを多く含んだ飲料を飲むと尿意を催すような人は、そのような飲料は避けた方がいい。さらに、体内で分解するために水分が必要とされるアルコール飲料は水分補給どころか、逆効果になってしまうことも覚えておこう。

 ◇エアコン利用は不可欠

 電気代の負担や冷風が体に当たるために、エアコンを使いたがらない人もいる。しかし、谷口医師は「今年のような暑さでは、生存のために不可欠だと考えてほしい。一晩や二晩なら耐えられるかもしれないが、何日も続けば不眠や脱水だけでなく、体力低下にもつながる。室温は28度以下、湿度は60%以下に保つようにしてほしい」と強調する。

 エアコンをつけると寒いという人に対しては、「冬物のパジャマを着たり、毛布を使ったりした上でもよいから、エアコンを使ってほしい」と谷口医師。エアコンで室温が下がっていれば、呼吸の際に冷気を肺が取り込み、体温を冷やすことができる。

枕元に寒暖計とエアコンのリモコンをそろえておこう

枕元に寒暖計とエアコンのリモコンをそろえておこう

 ◇室温は寒暖計で確認を

 もう一つ大切なのが、室温の確認だ。谷口医師は「エアコンを28度に設定すればすぐに室温が28度になるわけではなく、30度を超え続けていることが珍しくない。設定温度はエアコンから吹き出す風の温度と考えるべきで、強い日差しや建物からの放射熱、すきま風などで設定通りに冷えないケースが珍しくない」と指摘する。特に、いつまでもエアコンが稼働し続けている状態であれば、エアコンのセンサーが設定温度に達していないことを感知している証拠だ。谷口医師は「寒暖計を枕元や食卓のそばに置いて、室温が適正になっているか確認する習慣を付けてもらいたい」と話す。

 ◇他の疾患誘発、認知機能低下

 谷口医師がここまで警戒を呼び掛ける背景には、熱中症の後遺症が高齢者を中心に大きな問題になっていることがある。「高校生なら救急車で搬送されても、点滴や体を冷やすなどの措置を施せば、1日で退院できる。しかし高齢になれば、熱中症自体の症状は治療で回復しても脳血管系や循環器系の疾患を誘発したり、認知機能が大幅に低下してしまったりして、1週間以上の入院やその後の介護施設への入所が避けられなくなる事例が少なくない」と指摘する。

 その上で「熱中症というと、その場で終わる病気と考えている人も多いが、脱水や体温の急激な上昇は複数の臓器に障害をもたらすし、血流も低下させる。その結果、脳や心臓といった重要でダメージが出やすい臓器に大きな問題を引き起こしてしまう。熱中症は急性期だけでなく、予後の点でも生命を左右する病気であり、軽く見ないでほしい」と訴えている。(喜多壮太郎)

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