「医」の最前線 行動する法医学者の記録簿

多くが高齢者、22例中9例は低体温
~能登・輪島で検案の法医学会第1陣―新潟大教授~ 【第5回(下)】

8次派遣までの能登半島地震の死因別検案数(日本法医学会提供資料を加工)【時事通信社】

8次派遣までの能登半島地震の死因別検案数(日本法医学会提供資料を加工)【時事通信社】

 ◇正確な情報いかに集め、人と物投入するか

 東日本大震災の時との違いは、まず現場に行くまでに目にした支援の車が少ないことです。東日本では、東北道を警察や消防、自衛隊などの車両がすごくたくさん走っていましたが、今回の地震では、北陸道を走っていてもちょっと見るくらいでした。

 そして、実際に被災地に入って感じたのは、援助物資も人も少ないということです。例えば警察ですが、通常は検視の係で来られた方は、ご遺体の搬送には関わらないことになっていますが、人手が足りないので、(搬送)現場に出ておられました。

 被災地へアプローチする道路が1本しかなく、そこがやられて渋滞になって、(車両や人を)動かそうにも動かせなかったんじゃないかなと感じました。東日本の時は、高速道路というしっかりした道が生きていたわけです。能登の場合は、かなり厳しい条件だったのではないかと思います。

新潟大学医学部の高塚尚和教授(法医学)=本人提供【時事通信社】

新潟大学医学部の高塚尚和教授(法医学)=本人提供【時事通信社】

 今後の災害を考える上で、被災地に物資や人材をいかに投入していくか、どういう形で支援していくかが重要になるのではないでしょうか。能登半島地震では、多くの孤立地区ができましたが、情報はなかなか来ませんでした。

 法医学会も1日程度、派遣が遅かったかもしれません。初動段階で、正確な情報をいかに現地から集めるかがますます大切かなと思います。

 検案に関係することで一つ。圧死や外傷性ショック死などの診断のために、難しいとは思いますが、CT(コンピューター断層撮影装置)があると、もう少し死因究明の精度を上げられるだろうと感じています。

 CTがあるなら、負傷した方や患者さんに使うべきだという議論はありますが、大阪監察医事務所には車載式の(遺体)専用の物があります。現場で診断する上で、非常に有用だと思います。

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 ◇家屋倒壊の圧迫死7割、低体温1割超

 日本法医学会(神田芳郎理事長)は、能登半島地震の被災地で検案活動をした法医学者による犠牲者131人の死因報告をまとめた。最多だったのは「家屋の倒壊による圧迫」の88人で、全体の67.2%と7割近くを占めた。低体温で死亡した人も1割超に上った。

 法医学会は1月4日に警察庁の要請を受け、大学教授ら専門知識を持つ法医を同月5日から23日まで8次にわたり、能登半島に派遣。3日に現地入りした先遣隊を含む計20人が、珠洲市の犠牲者56人、輪島市64人、穴水町11人の死因などを調べた。

 家屋倒壊による圧迫死の内訳は、「圧死」が63人。次いで「頸部(けいぶ)・胸部圧迫」12人、「頭部外傷」4人、呼吸運動が障害される体位から逃れられなくなった「体位性窒息」3人などだった。

 低体温で亡くなった人は全体の16%に当たる21人、焼死が2人、病死が4人。死因不詳は16人で、うち11人が焼死体と報告されている。津波による溺死はいなかった。

 低体温で亡くなった人は、倒壊家屋の中から脱出できず、寒さで次第に体温が奪われ凍死したとみられている。避難所から一時帰宅して亡くなった人も2人含まれているという。

 法医学会は、「都会は耐震性の高い建物に建て替えが進んでいるが、地方は古い家屋のままで、日本の現状があらわになった。寒い時期に発生したことも(犠牲者の)数を増やす要因になった」と分析している。(時事通信解説委員・宮坂一平)

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