「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

デング熱・国内流行再燃の懸念 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第4回】

 ◇訪日外国人への注意喚起も 

国内外の観光客でにぎわう浅草寺の雷門(2024年2月)

国内外の観光客でにぎわう浅草寺の雷門(2024年2月)

 流行地域から入国する訪日外国人への注意喚起も忘れてはなりません。

 私たちは18年から19年に、東京の浅草で東南アジアから来日した旅行者(約150人)を対象に、デング熱予防に関するアンケート調査を行いました。ほとんどの旅行者はデング熱という病気を知っており、約9割が「母国では蚊の対策をしている」と回答しました。しかし、「日本に滞在中も蚊に刺されない対策をしているか?」という質問には、「対策をしている」との回答が約3割と大変低くなりました。

 流行地域からの旅行者の中には、日本旅行中にデング熱を発病する人もいます。こうした旅行者は、発熱があっても観光を続けるケースが少なくありません。このときに日本のヤブ蚊に刺されると、その蚊を介して国内流行の起こる可能性が生じます。このような事態を避けるため、私たちは訪日外国人を対象に、日本国内でも蚊に刺されない注意をしてもらうことや、発熱時は医療機関を受診してもらうように情報提供しています。

 ◇ワクチンも開発された

 最近、フランスのサノフィ社や日本の武田薬品がデング熱ワクチンを開発し、海外で販売を行っています。遺伝子組み換えワクチンであるため、日本での承認はまだ先になりますが、日本の駐在員などが海外で接種を受けるケースも最近は増えています。また、ブラジルでは、現在の流行を収束させるため、武田製のデング熱ワクチンの集団接種を今年から始めています。

 こうしたワクチン接種でデング熱の世界的な流行が抑えられれば、日本への輸入例も減り、国内流行への懸念は払拭(ふっしょく)されていくでしょう。しかし、それには時間がかかるため、まずは蚊の駆除や、蚊に刺されない対策を進めていくことが必要なのです。

 以上、今年の夏は国内でデング熱流行が再燃する可能性があることを解説しました。デング熱には、発熱とともに発疹を起こすという特徴的な症状があります。流行地域から帰国後の人はもちろんのこと、海外に渡航していない人も、こうした症状が見られたら医療機関を受診し、デング熱に感染していないか診察を受けてください。医療機関側にも、デング熱の国内流行を想定した診療の提供をお願いいたします。(了)

濱田客員教授

濱田客員教授


 濱田 篤郎(はまだ・あつお)
 東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。



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