新米医師こーたの駆け出しクリニック

HIV克服のために
~新常識「U=U」で偏見なくそう~ 専攻医・渡邉 昂汰

 1月からヒト免疫不全ウイルス(HIV)診療に携わる機会をいただき、HIV感染症およびエイズの診断・治療を行っています。外来を担当していると、不特定多数との性行為などリスクのある行動をした自覚のある方もいらっしゃいますが、「なんで私が?」と心当たりがなく戸惑われる方もいます。限られたコミュニティーの中の疾患だと思うかもしれませんが、誰もが当事者になる可能性があるのです。社会全体でHIVに立ち向かっていくために、今回は「HIV≠エイズ」「U=U」について知っていただけたらと思います。

HIVに感染しても、きちんと管理すれば普通の生活を送れます。偏見をなくし、正しい認識を持ちましょう

HIVに感染しても、きちんと管理すれば普通の生活を送れます。偏見をなくし、正しい認識を持ちましょう

 ◇エイズ回避は可能

 HIVは、免疫の司令塔の役割を持つ細胞に感染して増殖し、徐々に免疫系を破壊するウイルスです。感染すると風邪のような症状が1度だけ出現した後、数年から10年程度の無症候期を経て免疫不全状態になります。健康な人には害のないような弱い細菌や真菌、ウイルスなどに感染するようになってしまうため、肺炎脳炎、ウイルス性のがんなどを容易に引き起こします。この免疫不全によってさまざまな疾患が生じた状態をエイズと言います。

 HIVに感染しても、無症候期に治療を始められれば、エイズを発症することはほとんどありません。現在は1日1錠の内服薬でHIVのウイルス量をコントロールでき、感染前とほとんど変わらない生活を送ることができます。

 ◇性行為でも感染せず

 HIV陽性者への恐怖は根強く、差別や偏見に苦しんでいる患者さんも多くいらっしゃるのが現状です。しかし、飛沫(ひまつ)・接触感染でうつらないのはもちろんですが、現在は性的接触でも感染しない疾患になってきています。

 「HIV感染症は、血液中のウイルス量が6カ月以上コントロールできていれば、性行為をしても他者に感染しない」ということが、数々の研究で分かっています。欧州で行われたPARTNER1およびPARTNER2という研究では、異性愛者カップルおよび男性同性愛者のカップル共に、薬物療法でウイルス量を6カ月以上コントロールできていれば、コンドーム不使用でもHIV陽性パートナーからの感染率はゼロであったという結果でした。

 検出限度未満という意味の「Undetectable」と感染しないという意味の「Untransmittable」の頭文字をイコールで結んだ「U=U」という標語を掲げ、世界中で啓発活動が行われています。

 ◇重要な発症前検診

 以上をまとめますと、「たとえHIV感染してしまっても、エイズを発症する前に検診などに行き治療をすれば、死ぬことも他者にうつすこともない」と言えます。

 発症後でも適切な治療を行えば、日常生活に戻れる場合もあります。ただ、一部の方は死に至ったり、後遺症に苦しんだりするので、やはり無症候期の間に治療を開始することが重要です。

 残念ながら、HIV感染は現在も3割程度がエイズ発症後に判明しています。検査率が低いのは、偏見や無知による過剰な恐怖によるところが大きいと思います。

 くどいようですが、HIVに感染しても、性生活も含め日常生活を普通に送れる時代です。HIVへの偏見がなくなれば検査を受けるハードルが低くなり、結果的にHIV感染症の制圧につながるでしょう。HIV克服に向けて、U=Uのメッセージが全ての人に広がっていくよう願っています。(了)

渡邉昂汰氏

渡邉昂汰氏


 渡邉 昂汰(わたなべ・こーた) 内科専攻医および名古屋市立大学公衆衛生教室研究員。「健康な人がより健康に」をモットーにさまざまな活動をしているが、当の本人は雨の日の頭痛に悩まされている。

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