「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

デング熱・国内流行再燃の懸念 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第4回】

 蚊に媒介される感染症の流行が世界各地で見られています。特にデング熱の流行がアジアや中南米で拡大しており、日本でも国際人流の再開とともに輸入例が増加傾向にあります。この影響で、2014年に東京都などで発生した国内流行の再燃が懸念されています。今回は世界的なデング熱の拡大と、国内流行への備えについて解説します。

 ◇世界的な蚊媒介感染症の流行

 昨年から世界各地で蚊に媒介される感染症の流行が報告されています。オーストラリアでは北部のクイーンズランド州でロスリバー熱が流行し、南米のアルゼンチンでは西部ウマ脳炎の患者が増加中です。タイではジカ熱の報告数が増えています。

 こうした蚊媒介感染症の中でも、流行地域が広く患者数も多いのがデング熱で、昨年からアジアや中南米で大流行が起きています。マレーシア、シンガポール、タイなどでは、今年になり昨年を大きく上回る患者数が報告されており、ブラジルでも今年は3月末までに200万人の患者が発生しました。

 蚊媒介感染症が世界的に増加している原因としては、第一に新型コロナウイルスの流行で各国の保健医療担当者が多忙になり、蚊の駆除対策が停滞したことが挙げられます。第二に、最近の気候変動による高温・多雨の影響で、蚊の生息数が増えたためと考えられています。

 ◇日本でのデング熱輸入例の増加

 デング熱はヤブ蚊に媒介されるウイルス疾患で、発熱や発疹が見られます。発病した人の約5%がショックや出血を起こし重症化しますが、死亡するケースは少ないとされています。

 日本には土着していませんが、10年ごろから毎年200~300人の輸入患者が報告されており、19年はその数が461人に達しました。感染した国は東南アジアが大多数を占めています。デング熱を媒介するヤブ蚊は、東南アジアの都市部やリゾートに多く、そこを訪れる日本からの渡航者が感染するのです。

 こうしたデング熱の輸入例は、20年以降、新型コロナ流行による国際人流の停止により激減しました。しかし、この人流が再開した23年は175人に増加しており、24年は3月末までに39人で、23年同期(15人)の2倍近くになっています。

デング熱の輸入患者数(国立感染症研究所公表資料より作成)

デング熱の輸入患者数(国立感染症研究所公表資料より作成)

 コロナ禍後の人流再開で、日本から流行地域への渡航者数が再増加しただけでなく、流行地域からの訪日外国人も増加しています。これに加えて、デング熱の世界的な流行状況はコロナ禍前に比べて拡大しており、今後、日本へのデング熱輸入例の増加は避けられない状況と言えるでしょう。

 ◇国内流行への懸念

 日本へのデング熱輸入例が増えてくると、国内流行の発生が懸念されます。14年夏には、東京都の代々木公園などで100人を超えるデング熱の患者が発生しました。19年にも、東京都の高校生が修学旅行で訪れた関西で感染したとされるデング熱事例が報告されています。

 日本にもデング熱を媒介するヤブ蚊の一種であるヒトスジシマカが、本州以南に生息しています。このため、国内のヤブ蚊が輸入患者を吸血すると、体内でウイルスが増え、その蚊が次の人を吸血したときにウイルスを注入し、感染させる可能性があるのです。今後、ヤブ蚊が増える5月以降、国内流行が再燃するリスクは高くなっていくでしょう。

 ◇渡航者は昼間の蚊対策を

 こうした国内流行を防ぐためには、国内での蚊の駆除がまずは必要です。さらに、アジアなどの流行地域に滞在する渡航者は、現地で媒介する蚊に刺されない注意をすることも大切です。

 デング熱を媒介するヤブ蚊は昼間吸血します。蚊は夜に吸血すると思っている人も多いようですが、ヤブ蚊が吸血するのは昼間です。この時間帯、流行地域で蚊の多い場所に立ち入るときは、昆虫忌避剤を皮膚に塗るなどして、蚊に刺されない対策を取ってください。ゴルフ場や水たまりのある公園などは要注意です。

 また、流行地域から帰国後に発熱や発疹が見られたら、早めに感染症科のある医療機関を受診するようにしましょう。デング熱の早期発見は、ご自身の健康のためだけでなく、国内流行を防ぐためにも大切なのです。

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