「医」の最前線 地域医療連携の今

初期治療が大事な糖尿病
~コロナ下の受診控えで病状悪化~ 【第1回】糖尿病の医療連携① 嶋田病院内科部長 赤司朋之医師

 新型コロナウイルス感染症により、日本の医療現場が抱えるさまざまな課題が浮き彫りになった。その一つが、地域の医療機関が役割分担しながら適切な診療を患者に提供するための地域医療連携だ。コロナの重症化リスクがあるとされた糖尿病高血圧などの生活習慣病は、自覚症状が表れにくいことから放置されることも多く、病態が進行して合併症を起こしたり、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞などを発症したりすることも少なくない。かかりつけ医と病院などが連携して早期発見・早期治療を進めることにより、膨らみ続ける医療費の削減につながることも期待されている。

嶋田病院の赤司朋之内科部長

嶋田病院の赤司朋之内科部長

 ◇重症化リスクのある基礎疾患

 生活習慣病の中でも、特に初期治療が大事なのが糖尿病だ。血糖値が慢性的に高くなることで、さまざまな合併症を引き起こす病気だが、自覚症状が表れにくく、進行すると網膜症や腎症、神経障害などを起こして失明や人工透析、下肢切断などの原因となる。最初にどのような治療が行われたかによって、その後の経過が大きく変わり、難治がんの一つである膵臓(すいぞう)がんのほか、脳卒中や心血管疾患の発症リスクも高くなるため、専門医による治療が望ましいとされる。

 コロナ禍においては、高血圧糖尿病などの基礎疾患を持つ人の重症化リスクが指摘され、ニュースなどをきっかけに関心を持つようになったという人も少なくないだろう。その一方で、コロナの感染拡大を背景に、受診したくても感染の不安から病院に行けないという状況も見受けられた。

 「新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた2020年2月から夏頃までの約半年間は、当院でも患者さんの受診控えが大きな問題となりました。薬を取りに来なかったり、検査を受けに来なかったり。受診者数は連携している患者さんで若干減少し、一般受診者では2割程度減少しました」。こう話すのは、長年にわたり糖尿病の医療連携に取り組んできた嶋田病院(福岡県小郡市)内科部長の赤司朋之医師だ。

糖尿病の医療連携に力を入れている嶋田病院

糖尿病の医療連携に力を入れている嶋田病院

 危機感を覚えた赤司医師が考えたのは電話による再診のお願いだった。久しぶりに検査をすると病状が悪化している患者が多く見られたという。受診は控えたいという患者も多く、「薬だけではダメですか?」と訴える人に対しては苦肉の策として電話による問診を行った。

 現在は20年のような受診控えは落ち着いているが、コロナに感染した患者もいたという。「コロナ感染を恐れていたようで、当院へも1年以上受診していませんでした。人工呼吸器を装着するほどの重症度でしたが回復され、それ以降は病気と真摯(しんし)に向き合い、きちんと受診もされるようになりました。患者さんの中には、もう一度入院して糖尿病の勉強をしたいと希望される方もおられます」

 ◇細胞が「飢餓状態」

 糖尿病とはインスリンの分泌不足や作用不足によって、血中のブドウ糖(血糖)が増えて慢性的に高血糖状態が続いている病態のことを言う。「ただ単に血糖が上昇するという単純なことではありません。インスリンを使って細胞の中に糖を取り入れている筋肉細胞や脂肪細胞が、糖を取り込めずに飢餓状態になっていると考えると分かりやすいと思います」

インスリンの役割は細胞の中に糖を運び込むこと

インスリンの役割は細胞の中に糖を運び込むこと

 糖尿病は、膵臓の内部にある、インスリンを分泌するランゲルハンス島が壊されることで起こる1型糖尿病と、インスリンの分泌低下や抵抗性(十分働かないこと)、肥満運動不足などを要因とする2型糖尿病のほか、遺伝因子を要因とするものや妊娠糖尿病に分けられる。

 糖尿病によって血糖値が上がると、血管が傷ついて動脈硬化が進行しやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞、閉塞(へいそく)性動脈硬化症などの大血管障害を発症させるリスクが高まる。海外の研究では、糖尿病に罹患(りかん)していると、心筋梗塞を一度起こした場合と同程度のリスクがあると報告されている。また、血糖が高い状態が続くことで、糖尿病の三大合併症である網膜症、腎症、神経障害が起こってくる。

 糖尿病にかかる人の数は増加傾向にあり、40歳以上の3人に1人は予備軍と言われている。16年度の厚生労働省のデータによると、糖尿病が強く疑われる人は約1000万人と推計されているが、その中で治療を受けている人の割合は76.6%。年齢別では、40歳代男性で治療を受けている割合が低くなっている。

 「欧米人の場合、インスリンは十分に分泌されているが、食べ過ぎなど肥満によってインスリンが効かなくなるタイプが多く、アジア人の場合は、痩せているのに食後の高血糖を起こすといった人種的な特徴が見られます」と赤司医師は説明。その上で、「日本人の中にも欧米型のように肥満インスリン抵抗が高くなって起こることもありますが、背景に見られるのは高カロリーの食生活や運動不足などです」と話し、生活習慣の見直しを呼び掛ける。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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