こちら診察室 介護の「今」

帰りたくても帰れない 第14回

 認知症でハードル上がる

 介護保険施設に入所する人の高齢化が進んでいる。それに伴い、認知症がある入所者が増えており、認知症がない入所者は1割に満たないというのが実態だ。

 そんな中、認知症専用棟を持つ関東地方のある老健では、認知症入所者の家庭への復帰がかなわないまでも、家族と一緒にホテルに宿泊することを勧めるなど、家族との絆を途切れさせないような機会を設けている。

 認知症が進んだ入所者は、「家に帰りたい」という意思を伝えることすら難しく、住み慣れた家に帰るばかりではなく、共に過ごした家族と一緒に過ごす機会も遠ざかる。コロナ禍がそれに拍車を掛けた。

 ◇「やっぱり家がいいべ」

 もちろん、在宅復帰が入所者の幸せのための唯一の選択肢ではないだろう。しかし、在宅復帰を望む入所者が少なくないのは事実だ。

 東北地方の入所施設の相談員兼ケアマネジャーは、在宅サービスを利用することで在宅での療養生活が可能と思われる入所者の退所の受け入れを家族に働き掛けている。できる限りの家族支援も提案する。

 残り少ない人生の時間。そのケアマネジャーの勧めを受け入れたある家族は、「『何としてこれからやっていくべ』と心配しましたが、家に帰って来たら、母も安心したのか、表情もずいぶん穏やかになりました」と目を細めた。その横でケアマネジャーは、「やっぱり家がいいべ」と、在宅復帰を果たした女性に優しく語り掛けた。(了)

 佐賀由彦(さが・よしひこ)
 1954年大分県別府市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。フリーライター・映像クリエーター。主に、医療・介護専門誌や単行本の編集・執筆、研修用映像の脚本・演出・プロデュースを行ってきた。全国の医療・介護の現場を回り、インタビューを重ねながら、当事者たちの喜びや苦悩を含めた医療や介護の生々しい現状とあるべき姿を文章や映像でつづり続けている。中でも自宅で暮らす要介護高齢者と、それを支える人たちのインタビューは1000人を超える。

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