杏林大学皮膚科学教室教授の大山学氏らは、2021年1~3月に日本で行われた円形脱毛症(AA)に関するリアルワールドの横断的研究Adelphi Alopecia Areata Disease Specific Programme(DSP)に参加した日本皮膚科学会(JDA)認定皮膚科専門医50人および担当AA患者235人のデータを解析。その結果、日本全国でのAA関連費用の総額は年間1,127億円に上り、うち78.2%がAAによる労働生産性の低下に起因するもので、年間200万日超の活動時間がAAにより失われているとの推定結果をJ Dermatol2023年7月12日オンライン版)に発表した。

JAK阻害薬の承認で薬剤費が増加する可能性

 解析対象は、Adelphi AA DSP参加者のうちAAの重症度などに関する質問票に回答した皮膚科専門医50人と、AA関連費用に関する質問票および仕事の生産性と活動障害に関する質問票(Work Productivity and Activity Impairment qustionnaire;WPAI)に回答した15~64歳のAA患者235人(平均年齢41.1歳、女性58.7%)。

 解析の結果、AA患者の92.3%が処方箋薬による治療を受けており、患者1人の1カ月当たりの平均自己負担額は4,263±8,004円と比較的低額だった。一方、一般用医薬品(OTC薬)の使用率は8.7%と低く、1カ月当たりの平均OTC費用は3,425±1,955円だった。

 ただし、研究当時はまだヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬がAA治療薬として承認されていなかったため、大山氏らは「JAK阻害薬の承認に伴い、今後は特に重症AA患者で薬剤費が増加する可能性が高い」と指摘している。

助成制度がないAA患者のウィッグ費用

 また、AA患者の25.0%がかつら(ウィッグ)を使用中、8.6%が過去にウィッグを使用していた。ウィッグ1個当たりの費用は5万7,263±10万9,058円と比較的低額だった。

 この結果について、大山氏らは「日本ではAA患者のウィッグ費用に対する助成制度がなく、医療用ウィッグは高額になることがあるため、患者が医療用でないファッションウィッグを購入し費用を抑えている可能性がある」と付言している。

欠勤は少ないが労働生産性は大きく低下

 WPAI質問票の解析では、アブセンティーズム(absenteeism:過去7日間の労働時間のうちAAが原因で欠勤した時間の割合)は0.9±2.8%と低かった一方、プレゼンティーズム(presenteeism:同期間中にAAにより仕事に支障が生じた時間の割合)は23.9±25.7%と高かった。両者を合わせた全般的な労働障害(労働生産性の低下)の割合は24.3±25.8%、日常生活における活動障害の割合は35.0±29.5%だった。

 日本全国で1年間にAAにより失われる活動時間は、家庭での活動(家事、介護、育児、買い物)で171万6,990日、学業で38万2,675日、スポーツで9万103日、社会生活で12万1,808日と推定され、合計で230万日超に上った。

 全国でのAA関連費用の総額は年間1,127億800万円と推定され、そのうち78.2%(881億2,300万円)が労働生産性の低下によるものだった。さらに、労働生産性の低下はAAの重症度により大きく異なり、頭皮面積に占める脱毛面積の割合が25%超の患者(30.3±29.8%~31.9±25.8%)では25%未満の患者(14.4±20.6%)と比べて2倍の生産性低下となっていた。これらの結果を踏まえ、大山氏らは「AAの治療においては、日本皮膚科学会のAA診療ガイドラインで重症と定義している脱毛面積(25%以上)未満に抑えることが重要」と述べている。

太田敦子