「医」の最前線 希少疾患治療の最前線

寛解導入可能、専門医で早めの受診を
~悪性関節リウマチ・希少疾患その4~ 田中良哉・産業医科大学医学部第一内科学講座教授

 指定難病数は11月1日現在、338に上る。「パーキンソン病」や「潰瘍性大腸炎」など有名人が患ったことから、一般に広く知られている病名もあるが、一度も聞いたことがないような病名も数多い。全体像が明らかな疾患はごくわずかで、未解決の課題も山積している。「希少疾患」に対する最新の治療方法や課題について紹介する。 (取材・構成 ジャーナリスト・美奈川 由紀)

田中良哉・産業医科大学医学部第一内科学講座教授

 難病情報センターのホームページによると、悪性関節リウマチは、血管炎など関節外症状があり、重い臨床病態を伴うとされている。関節リウマチが重症化したものではない。関節の腫れや痛み、こわばりなどの症状が見られることから、長い間、整形外科領域と見なされていたが、20世紀に入り、内科的疾患であることが分かり、治療法が確立した。産業医科大学医学部第一内科学講座の田中良哉教授は「早期発見、早期治療によって寛解導入が可能なので、症状があれば早めに専門医を受診してほしい」と話す。

 ◆疾患名は日本特有の概念

 疾患活動性が高い関節リウマチに、血管炎をはじめとする全身の臓器病変が併発するなど、難治性を伴う病態を悪性関節リウマチという。疾患名の悪性関節リウマチは日本特有の概念で、諸外国では血管炎に基づく症状を主体とすることから、リウマトイド血管炎と呼ばれている。

 悪性関節リウマチは、その疾患名のイメージとは異なり、自己免疫疾患(膠原病)で上強膜炎や心膜炎、胸膜炎や皮下の結節、紫斑や消化管出血など全身の血管炎症状を伴う。通常のリウマチよりも多発関節炎がひどくなる傾向があり、炎症が強いため、変形しやすいのも特徴の一つだ。

 「患者さんによって症状はさまざまですが、中でも多く見られるのが肺疾患です。患者さんの約3割が間質性肺炎を伴い、そのうち1割程度の人が呼吸不全によって死亡します。昔は亡くなって初めて、肺障害に気付くこともありました」

 好発年齢は関節リウマチが30~50代であるのに対して、悪性関節リウマチは50~60代と少し年齢層が高くなる。女性の割合も悪性関節リウマチは高くなる。患者数は全国に約6000人いるとされている。

 ◆早期治療で半年以内に寛解導入

 悪性関節リウマチは、関節の痛みや腫れが左右対称に起こったり、変形を伴ったりするため、長い間、整形外科領域の疾患とされてきた。ところが、20世紀の終わりに免疫異常によって起こることが判明し、それ以降、内科によって治療が行われるようになった。

こわばった指先が曲がったままになる(産業医科大学医学部第一内科学講座 田中良哉教授提供)

 関節リウマチは、朝の手のこわばりが特徴的な症状で、目が覚めた時に手が握れなかったり、箸が持てなかったり、女性であれば化粧ができないといった症状が1時間以上続くことがあり、整形外科を受診する人も少なくない。

 「当病院の患者さんの9割は、整形外科からの紹介です。それによって早期発見が可能となりました。整形外科病院とリウマチの専門病院との連携はとても重要ですが、リウマチがどんな病気なのか患者さん自身も理解することが必要です。そして、リウマチの疑いがあると感じたら、まずは、リウマチの専門医を受診してください」

 心臓や肺、腎臓といった主要臓器が障害を受けるとQOL(生活の質)が著しく低下してしまう。皮膚に潰瘍ができると壊疽(えそ)を起こし、関節も一度破壊されると治ることはない。

 「早期発見、早期治療により予後は非常に良くなりました。関節リウマチであれば、およそ半年以内に、病気による症状や検査異常が消失した状態を示す寛解を目指すことが可能です。関節が壊れる前に治療を開始して、関節が壊れる前に寛解導入に持っていくことが非常に重要で、そのためには、やはり早期発見、早期治療しかありません」

 ◆他の膠原病との鑑別診断が重要

 診断は10項目の臨床症状に加え、組織所見や鑑別診断でされるが、重要なことは、初期の段階で正確な診断をすることだ。

 「診断においては、血管炎症候群である顕微鏡的多発動脈炎という、非常に重い疾患との鑑別が必要となります。悪性関節リウマチは、関節リウマチの病態とは異なるほか、ドライアイやドライマウスを呈する、シェーグレン症候群や慢性甲状腺炎など、他の膠原病との併発も多く見られます。そのため、それらの疾患との鑑別や、100以上もある膠原病との鑑別も必要となるので、診断に慣れていないと判断が難しい場合もあるかもしれません」

発症した膝の外観(産業医科大学医学部第一内科学講座 田中良哉教授提供)

 ◆治療の基本は関節リウマチを治す

 「疾患を制御するには、免疫異常の制御が必要となります。そこで使用されるのが免疫抑制剤、つまり抗リウマチ薬になりますが、その代表がメトトレキサートです」

 抗リウマチ薬は二つのタイプに分類される。一つは内服薬の合成抗リウマチ薬で、もう一つは点滴や注射薬として投与する、生物学的抗リウマチ薬だ。この2種類の抗リウマチ薬をうまく使うことで、寛解導入が可能となった。治療効果をさらに高めたのが、合成抗リウマチ薬に分類される、分子標的型合成抗リウマチ薬のJAK阻害剤だ。JAK阻害剤は、細胞内のJAKという酵素の働きを抑えることで、炎症や関節破壊を抑制する作用がある。

 「JAK阻害剤の登場により関節が崩れなくなり、また、臓器障害も起こりにくくなりました。悪性関節リウマチの治療の基本は、関節リウマチの治療をしっかりすることです。治療にはメトトレキサートを中心に使用しますが、内服薬で不十分であれば、生物学的製剤などを同時に併用します。しかし、中には、間質性肺疾患が急激に進行したり、心臓などの主要臓器に重い障害が起こったりすることがあります。このような場合には、シクロホスファミドという副腎皮質ステロイドを大量投与して、免疫を根本的に抑え込みます。つまり、顕微鏡的多発動脈炎と同じ治療をします」

 抗リウマチ薬を使用するに当たっては、副作用の管理がとても重要となる。「特に、感染症に対する対策が必要だ」と田中教授は強調する。

 「抗リウマチ薬は、患者さんの全身管理ができる医師の下で使用しなければなりません。当院では、JAK阻害剤を用いる場合、3泊4日の入院をしてもらっています。感染症などの危険因子がないか、薬剤を使用するに当たっての適応の有無など、スクリーニングやモニタリングを行います。当院では、これまで延べ4200人の患者さんのスクリーニングを行う中で、早期の肺がんが12人発見されました。肺がん手術後にリウマチ治療が開始されましたが、皆さんお元気にされています」

 ◆発症早期からの治療で休薬も可能

 抗リウマチ薬は治療が始まると生涯投与を続けなければならないが、田中教授によると、寛解導入に入った患者の約半数は、休薬が可能だという。

 「26施設で行った臨床研究の結果から、1年以上休薬しても再発しないことが分かってきました。当院では、発症早期からしっかり治療を行っているので、患者さんの約半数は薬を止めることが可能です」

 関節リウマチ、悪性関節リウマチともに治療目標は寛解だが、新しい治療薬の登場などによって寛解導入は容易になったという。

 「しかし、寛解から治癒の間には大きな壁があります。ここが大きな課題で、現在、ドイツやイギリスとグローバル研究をしています」

 田中教授によると、リウマチが発症する10年ほど前に、CCP抗体という自己抗体が陽性になるという。発症にCCP抗体の上昇と環境因子などが関与しているのではないか、と考えられているという。

 「つまり、CCP抗体ゼロの状態を目指せばいいということになりますが、現状では、残念ながらまだまだ難しいと言わざるを得ません」(了)

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