英・King's College LondonのMark D. Russell氏らは、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の投与例における悪性腫瘍の発生リスクをランダム化比較試験(RCT)62件および長期延長試験(LTE)16件のメタ解析で検討。その結果、JAK阻害薬投与群における悪性腫瘍の発生リスクは、プラセボおよびメトトレキサート(MTX)投与群とは有意差がなかったものの、腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬投与群に比べて高かったとAnn Rheum Dis2023年5月29日オンライン版)に発表した。ただし、いずれの薬剤群でも悪性腫瘍の発生率自体は極めて低かった。

100人・年当たりの悪性腫瘍の発生率はRCTで1.15、LTEで1.26

 Russell氏らは、MEDLINE、EMBASE、Cochrane医学データベースに2022年12月までに掲載された論文を検索。関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎乾癬、体軸性脊椎関節炎、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎の成人患者を対象にJAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブ、ペフィチニブ)をプラセボ、TNFα阻害薬、MTXと比較した第Ⅱ/Ⅲ/Ⅳ相RCT 62件およびLTE 16件の計78件を特定し、メタ解析に組み入れた。

 RCT/LTE合計データにおける各薬剤の曝露期間は、JAK阻害薬で8万2,366人・年、プラセボで2,924人・年、TNFα阻害薬で7,909人・年、MTXで1,074人・年だった。

 全体での非メラノーマ皮膚がん(NMSC)を含む100人・年当たりの悪性腫瘍の発生率は、RCTデータで1.15、RCT/LTE合計データで1.26だった。

 RCTのネットワークメタ解析を行った結果、JAK阻害薬群におけるNMSCを含む悪性腫瘍の発生率は、プラセボ群〔発生率比(IRR)0.71、95%CI 0.44~1.15〕およびMTX群(同0.77、0.35~1.68)とは有意差がなかった一方で、TNFα阻害薬群と比べて有意に高かった(同1.50、1.16~1.94)。

 RCT/LTEのネットワークメタ解析でも同様に、JAK阻害薬群における悪性腫瘍の発生率はプラセボ群(IRR 1.16、95%CI 0.75~1.80)およびMTX群(同1.06、0.58~1.94)とは有意差がなかったが、TNFα阻害薬群と比べて有意に高かった(同1.63、1.27~2.09)。

 また、NMSCのみに限定した解析でも、TNFα阻害薬群と比べてJAK阻害薬群で発生率が有意に高かった(IRR 1.93、95%CI 1.19~3.12)。

心血管危険因子がある50歳以上のRA患者の結果が大きく影響

 さらに感度分析として、心血管危険因子を有する50歳以上のRA患者において、TNFα阻害薬群と比べてトファシチニブ群で悪性腫瘍リスクが高いことを示したORAL Surveillance試験を除外して検討した。その結果、依然としてTNFα阻害薬群と比べてJAK阻害薬群で悪性腫瘍の発生率が高い傾向にあったものの、RCTデータ(IRR 1.11、95%CI 0.65~1.92)、RCT/LTEデータ(同1.60、0.99~2.58)ともに有意差は消失した。

 以上を踏まえ、Russell氏らは「JAK阻害薬群における悪性腫瘍の発生率はTNFα阻害薬群と比べて高かったが、プラセボ群およびMTX群とは有意差がなかった」と結論。「この関連性は、主に1件の大規模RCT(ORAL Surveillance試験)の結果に起因するものだった。また、いずれの薬剤群でも悪性腫瘍の発生自体は少なかった」と付言している。

(太田敦子)