オーストラリアと米国の健康な高齢者を対象に、低用量アスピリン連日投与のリスクとベネフィットを検討したランダム化比較試験(RCT)ASPirin in Reducing Events in the Elderly(ASPREE)では、主要評価項目である健康生存期間の延長効果が得られなかったばかりでなく、全死亡が増加した(関連記事「健康な高齢者に低用量アスピリンの効果なし」)。オーストラリア・Monash UniversityのGeoffrey C. Cloud氏らは、同試験で脳卒中一次予防と出血性イベントに焦点を当てた二次解析を実施。その結果、低用量アスピリン連日投与に脳卒中一次予防の効果はなく、頭蓋内出血リスクが上昇することが明らかになったと、JAMA Netw Open2023; 6: e2325803)に報告した。

脳卒中出血イベントを複数の専門医が評価

 高齢者は、小血管の脆弱化が進んでいる上、転倒などにより外傷を負いやすく、出血リスクが高い。低用量アスピリンは、脳卒中の一次および二次予防に用いられるが、高齢者において一次予防効果が頭蓋内出血リスクを上回るかは明らかでなかった。

 ASPREE試験の対象は、症候性心血管疾患のない高齢者。2010~14年に1万9,114例(年齢中央値74歳、女性56.4%)を低用量アスピリン群(腸溶錠100mg/日の連日投与;9,525例)とプラセボ群(9,589例)にランダムに割り付け、中央値で4.7年追跡した。

 今回の二次解析では、副次評価項目である初発脳卒中とその原因および頭蓋内出血イベントについて複数の専門医が詳細に評価した。

虚血性脳卒中に差はなく、頭蓋内出血が有意に増加

 虚血性脳卒中の発症率(1,000人・年当たり)は、プラセボ群の3.9に対し、アスピリン群では3.4で、アスピリン投与による有意なリスク低減は認められなかった〔ハザード比(HR)0.89、95%CI 0.71~1.11、P=0.28〕。

 出血脳卒中の発症率(1,000人・年当たり)は、プラセボ群の0.9に対し、アスピリン群では1.2と上昇傾向が見られたものの、統計学的に有意な差ではなかった(HR 1.33、95%CI 0.87~2.04、P=0.19)。

 一方、プラセボ群と比べアスピリン群では、脳卒中以外の頭蓋内出血(硬膜下血腫、硬膜外血腫、くも膜下出血)の複合発症率(1,000人・年当たり)が上昇した(プラセボ群1.0 vs. アスピリン群1.4、HR 1.45、95%CI 0.98~2.16、P=0.07)。出血脳卒中を含めた頭蓋内出血全体の発症率(1,000人・年当たり)を見ると、両群間の差は統計学的に有意となった(プラセボ群1.8 vs. アスピリン群2.5、HR 1.38、95%CI 1.03~1.84、P=0.03)。

 さらに、プラセボ群と比べアスピリン群では、頭蓋内出血以外の重要な出血として上部消化管出血が増加していた(HR 1.87、95%CI 1.32~2.66)。

 以上から、Cloud氏らは「高齢者を対象としたRCTの二次解析において、脳卒中一次予防に関し、脳卒中のサブタイプを問わずアスピリンによる統計学的に有意なベネフィットは得られなかった。一方で、アスピリンは頭蓋内出血の全体的なリスクを有意に増加させた」と結論。「これらのデータは、健康な高齢者には脳卒中の一次予防として低用量アスピリンを処方すべきでないという米国予防医学専門委員会(USPSTF)の勧奨と一致している」と付言している。

(小路浩史)