下水中のウイルスを測定・分析する下水疫学調査は、臨床検査データや受診行動の影響を受けずに地域における感染症の流行傾向を監視する目的で行われているが、個別の医療機関における感染者数などの予測に活用できるかどうかは検証されていない。北海道大学病院感染制御部薬剤師の鏡圭介氏、部長の石黒信久氏、同大学大学院工学研究院准教授の北島正章氏、札幌市下水道河川局の研究グループは、札幌市の下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)濃度と北海道大学病院の新規新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者数との相関関係を検討した結果をSci Total Environ2023; 899: 165457)に報告した。(関連記事「下水疫学調査で新型コロナの流行状況把握を」

下水疫学データと個別の医療機関感染者数の関連

 COVID-19の5類移行に伴い、SARS-CoV-2感染者数は全数把握から定点把握に切り替えられた。それに加えて、ワクチン接種率の向上および病原性の低い変異株の流行により、不顕性感染者や軽症者の割合が増えており、今後は臨床検査資源や受診行動に基づく流行状況の実態把握は難しくなることが想定される。しかし基礎疾患を持つ感染者の死亡率はいまだ高く、外来や病棟での院内感染を防ぐには医療施設内の感染状況把握が欠かせない。

 鏡氏らは、2021年2月15日~23年2月26日に札幌市の人口の52%が利用している5ヵ所の下水処理施設から、処理前の流入下水を24時間コンポジットサンプリングにより毎週3回計1,515検体採取した。その後、下水中ウイルスの高感度検出技術として同大学と塩野義製薬が共同開発したEPINENS-S法により、下水中SARS-CoV-2 RNA濃度を測定した。SARS-CoV-2 RNAは、1515検体中1302検体(85.9%)と高頻度に検出された。同時期の同大学病院の外来患者、入院患者、医療従事者および学生のCOVID-19患者数との相関関係を検証したところ、下水中SARS-CoV-2濃度と新規患者数の間に有意な正の相関が認められ(ピアソンの積率相関係数r=0.8823、 P<0.0001)、下水中のSARS-CoV-2濃度のモニタリングは、市内の医療施設における新規患者数の推定に有用であることが示された()。

図.下水中新型コロナウイルス濃度とCOVID-19患者数の関係

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(北海道大学プレスリリースより)

 「札幌市が公開している下水疫学データは、市内の医療機関が感染対策計画を立てる上で有用な情報であり、今後は他の都市でも下水疫学データの活用が期待される」と同氏らは展望している。


服部美咲