医学部・学会情報

日本人乳がん患者への新型コロナワクチン接種は有効かつ治療計画へは小さな影響 ~一方で化学療法やCDK4/6阻害薬投与中では効果が弱まる可能性~名古屋市立大学

研究成果の概要

【背景】

 新型コロナウイルス感染症の流行禍では、易感染者であるがん患者へのSARS-CoV-2ワクチン(以下、新型コロナワクチン)接種が推奨されています。しかし、その効果のがん治療による影響、変異株での効果の違い、新型コロナワクチン接種の治療計画に与える影響は明らかではありませんでした。これらを明らかにするために本邦の7施設*で多施設共同観察研究を行いました(UMIN000045527)。
*名古屋市立大学、名古屋市立大学医学部附属西部医療センター、名古屋市立大学医学部附属東部医療センター、札幌医科大学、秋田大学、三重大学、岡山大学

図1

図1

【研究の成果】

<対象・方法>

 2021年5月-11月に新型コロナワクチン接種予定の乳がん患者を対象とし、ワクチン接種前および2回目接種後4週で血清を採取しました。受けている治療別に無治療・ホルモン療法・抗HER2療法・化学療法・CDK4/6阻害薬のグループにわけて解析を行いました。

 SARS-CoV-2 S蛋白に対するIgG濃度およびSARS-CoV-2野生株・アルファ(α)・デルタ(δ)・カッパ(κ)・オミクロン(ο)株に対する中和抗体価をELISA法で測定しました。各治療グループ別の抗体陽転化率および各変異株に対する中和抗体価を比較しました。また、新型コロナワクチン接種による乳がん治療への影響を前向きに聴取しました。

<結果>

 適格症例は85例(無治療群; n=5、ホルモン療法群; n=30、抗HER2療法群; n=15、化学療法群; n=21、CDK4/6阻害薬群; n=15)。年齢中央値は62.5歳。全体の抗体陽転化率は95.3%、中でも化学療法群の抗体陽転化率は81.8%でした(図1)。これは、乳がんの病状とは関連がありませんでした。さらに化学療法群では抗SARS-CoV-2 IgG抗体濃度が、無治療群と比較して有意に低かった(図2)ことに加え、野生株・α・δ・κ株に対する中和抗体価が、無治療群に比較して有意に低下していることがわかりました。CDK4/6阻害薬群においても、野生株で有意な中和抗体価の低下を認め(図3)、その他の変異株でも低下傾向でした。

 また、新型コロナワクチン接種による計画的な薬剤休薬や延期は1例のみで、新型コロナワクチンの副反応による休薬や延期はありませんでした。

図2

図2

【研究のポイント】

 ・乳がん患者の新型コロナワクチン2回接種後の抗体陽性率は95.3%と高かった
 ・化学療法やCDK4/6阻害薬治療中の場合、ワクチン接種後に抗体が陽転化していても変異株によっては中和抗体価が低くなっている場合があった
 ・新型コロナワクチン接種をすることは、がんの治療計画には大きく影響しなかった

【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

 乳がん患者におけるSARS-CoV-2ワクチン接種後の抗体陽転率は過去の健常者データと同等であり、ワクチン接種による癌治療への影響も小さいことがわかりました。一方で、化学療法とCDK4/6阻害薬投与中では変異株によっては中和抗体価の低下が示唆され、長期的な感染予防への影響が懸念されました。これは、2回のワクチン接種後であっても感染予防のための行動が大切であることが示唆されました。

 今回の研究では、なぜ化学療法やCDK4/6阻害薬投与中でこのようなことが起こるかまでわかっていません。薬物治療中の免疫状態についてはまだまだわかっていないことが多く、今後の検討課題です。

図3

図3

【用語解説】

 ・SARS-CoV-2 S蛋白:新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2のスパイク蛋白で、細胞に侵入する際に重要な蛋白で、主にワクチンによる抗体産生の標的となっている
 ・IgG:免疫グロブリンの一種
 ・ELISA法:試料溶液中に含まれる目的の抗原や抗体を、特異抗体あるいは抗原で捕捉するとともに、酵素反応を利用して検出・定量する方法
 ・CDK4/6阻害薬:細胞分裂周期の進行を停止させて抗腫瘍効果を発揮する乳がんで使用される治療薬

【研究助成】

KIFUK20064

【論文タイトル】

Efficacy and impact of SARS-CoV-2 vaccination on cancer treatment for breast cancer patients: A multi-center prospective observational study

【著者】

寺田満雄1)、近藤直人1) 、鰐渕友美1) 、藤田崇史1) 、浅野倫子1) 、久田知可1) 、上本康明1)
加藤明子1) 、山中菜摘1) 、杉浦博士2) 、三田圭子3) 、和田朝香4) 、高橋絵梨子5) 、齊藤佳奈子6) 吉岡遼7)、*遠山竜也1)

 所属

1) 名古屋市立大学大学院 乳腺外科学分野, 2) 名古屋市立大学医学部附属西部医療センター, 3) 名古屋市立大学医学部附属東部医療センター, 4)札幌医科大学 消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座, 5) 秋田大学 乳腺・内分泌外科, 6) 三重大学 腫瘍内科, 7) 岡山大学 呼吸器・乳腺内分泌外科

【掲載学術誌】

学術誌名 Breast Cancer Research and Treatment
DOI番号:10.1007/s10549-022-06693-2

【研究に関する問い合わせ】

名古屋市立大学 大学院医学研究科乳腺外科学分野 寺田 満雄
住所 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
E-mail:breast@med.nagoya-cu.ac.jp

【報道に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 医学・病院管理部経営課
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-858-7114  FAX:052-858-7537
E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp


医学部・学会情報