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すべてのコロナウイルスに対応
~画期的な新抗体創出に成功―国立研究所など~

 新型コロナウイルス感染症の終息の見通しが立たない。原因にはオミクロン株をはじめとする変異株の出現があるが、一つの朗報がもたらされた。国立研究開発法人医療基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)と塩野義製薬との共同研究で、オミクロン株を含むさまざまな変異株に対応できる新たな抗ウイルス抗体の創出に成功した。この基礎研究の成果を基に、一刻も早い「広域型抗ウイルス抗体薬」の開発に期待がかかる。

ウイルスの感染・増殖の仕組み

ウイルスの感染・増殖の仕組み

 ◇「生産工場」を壊す

 NIBIOHN抗体デザインプロジェクトの永田諭志リーダーは「ウイルスは自ら増殖することができない。単独では増殖できないので、ヒトの体の中に入って増殖する。ウイルスは細胞の持つ仕組みを利用する。スパイクタンパク質で細胞表面の受容体に取り付き、細胞に侵入する」と説明する。

 感染したウイルスは、細胞を「生産工場」としていろいろなタンパク質を生じさせる。いったんウイルスが複製されて、「工場」から放出されれば、感染の拡大を防止するためには、受容体とスパイクタンパク質の相互作用をブロックする必要がある。永田リーダーは「それよりも有効なのは感染工場を壊すことだ」と言う。

従来の抗体と新たに開発された抗体

従来の抗体と新たに開発された抗体

 ◇中和抗体と異なるメカニズム

 ウイルスが標的とする細胞に感染する時に利用する領域に特異的に結合することで、ウイルスを中和し、感染性を失わせるのが「中和抗体」だ。中和抗体はウイルスのスパイクタンパク質のドメインを認識し、相互作用をブロックする。

 中和抗体について永田リーダーは「100%働くことができればよいが、ウイルスは生き残るためにあらゆる手段を講じ、ドメインが変異する」と言う。中和抗体が機能しないという限界があるわけだ。これに対し、NIBIOHNと塩野義の共同研究は、中和抗体とは異なるメカニズムで働く治療抗体薬の創製を目指してきた。

 ◇正常細胞には作用せず

 ウイルスに感染した細胞の表面には抗原が出現する。これを認識して結合した抗体は、NK(ナチュラルキラー)細胞やマクロファージなどの免疫細胞を誘導・活性化し、感染細胞を破壊する。この仕組みを「ADCC活性」と呼ぶ。新抗体はADCC活性を重視している。

 新抗体は正常な細胞には全く作用せず、感染した細胞だけに作用する。

永田諭志リーダー

永田諭志リーダー

 ◇画期的な機能

 抗体の特徴は、抗原全体の中でも認識しやすい部分に優先的にできることだ。しかし、抗体ができにくい部分にも、機能のある抗体ができる可能性がある。永田リーダーは「レアかつ変異が起きにくいところに抗体を作ることを実現したのが、私たちの特許技術だ。新抗体は世界で初めての画期的な機能を持つ」と話す。

 新型コロナウイルスの従来株にもデルタ株にもオミクロン株にも共通する点がある。タンパク質のうち、変異を起こしにくい一部の部分構造だ。この新型抗体は、そこを標的とする。永田リーダーは「これから出現するだろう変異株に対しても効果を発揮できる可能性がある」とした上で、「将来的にも類縁コロナウイルスを原因としてパンデミックを起こす可能性が高い。変異型ではない未知のウイルスにもあらかじめ対応し、コロナウイルス属のウイルスを共通して認識可能な先制的抗体薬を創ることをどんどんやっていくべきだ」と力説する。

 塩野義製薬とタッグを組むのは、同社が感染症に対する実績があるからだという。現在の抗体カクテルなどの中和抗体や経口薬として開発中の低分子化合物は、主に軽症の感染者を対象としている。一方、この新抗体を利用すれば、中等度以上の重症化リスクの高い患者にも投与できる抗ウイルス抗体薬の開発が期待できるという。(了)

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