腸内細菌叢と中枢神経機能の関連、いわゆる「脳-腸-腸内細菌叢相関」が注目を集めている。幼児期に著しく発達する実行機能は成人後の健康や経済力の予測因子とされるが、個人差に関連する因子は明らかでない。京都大学大学院教育学研究科の藤原秀朗氏らは、3~4歳児257例を対象に便中の腸内細菌を次世代シークエンサーで解析し、実行機能および食習慣などとの関連を検討。実行機能のうち感情制御の発達に関連する腸内細菌を見いだしたと、Microorganisms2023; 11: 2245)に報告した。

腸内細菌叢と感情制御の発達時期は一致

 実行機能は、感情制御と認知制御の2つの異なる領域から構成され、感情制御の発達は将来の心身の健康と関連するとの報告もある。また、成人期の認知機能や精神疾患との関連が示唆される腸内細菌叢は幼児期に急速に変化し、3~5歳時には成人と同様の構成になるとされ、これは実行機能の発達時期と一致している。

 そこで藤原氏らは、全国の保育施設・幼稚園に通園する3~4歳児257例(平均年齢46.5カ月、男児152例)を対象に、腸内細菌叢と実行機能および食習慣などとの関連を検討。母親にうつ病の既往がある児は除外した。

 腸内細菌叢は自宅で児の便検体を採取し、次世代シークエンサーを用いて16S rRNA解析を実施。腸内細菌の多様性と各菌の占有率を評価した。実行機能は実行機能質問票(BRIEF-P)を用い、日常の問題行動(63項目)について「1:見られない」~「3:よく見られる」の3段階で評価し、先行研究の基準(平均+1.5標準偏差)により感情制御または認知制御の発達にリスクがある困難群とそうでない対照群に分類した。食習慣は便検体採取の直近1週間の食品(24項目)の摂取頻度について、質問票を用いて「1点:食べていない」~「5点:毎日2回以上」で評価し、偏食の有無も評価した。なお、質問票はいずれも母親に回答してもらった。

感情制御が困難な児は、炎症性疾患に関連する腸内細菌が多い

 解析の結果、対照群と比べ感情制御の困難群では、炎症性疾患や炎症性サイトカインと関連するActinomyces属とSutterella属が有意に多く(順にP<0.001、P=0.003)、緑黄色野菜の摂取量が少なく偏食の割合が多かった(全てP=0.002、図)。

図.感情制御困難と食習慣および腸内細菌叢

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 (京都大学プレスリリースより)

 一方、対照群と認知制御の困難群では、腸内細菌叢や食習慣などに有意差は認められなかった。

 以上を踏まえ、藤原氏らは「幼児期の腸内細菌叢や食習慣は、実行機能の中でも感情制御の発達に関連することが示唆された。成人が対象の先行研究から、①腸内の炎症が脳の炎症と関連する、②炎症に関連する菌の豊富さは精神疾患と関連する、③食習慣は腸内細菌叢の多様性と密接に関連する-ことが報告されており、幼児期の感情制御の発達に対する個別化された介入方法の必要性があらためて示された。今回の知見は、効果的な介入戦略の開発に寄与する可能性がある」と展望している。

服部美咲