治療・予防

がんの重大な合併症―トルソー症候群
血栓症の発症で、がん治療中断も(千葉県がんセンター脳神経外科 長谷川祐三主任医長)

 がんになると血液が固まりやすくなり、血管や心臓などに血液の塊(血栓)ができやすい状態になることが知られており、最初に報告した医師の名前から「トルソー症候群」と呼ばれている。血栓が血流に乗って脳の血管に詰まると脳梗塞(塞栓性脳梗塞)を引き起こし、最近ではこのがん患者に起こる脳梗塞をトルソー症候群と呼称することが多い(今回はその意味で用いる)。膵臓(すいぞう)がんや卵巣がん、エコノミークラス症候群の既往のある人などが起こしやすいため特に注意が必要だ。

トルソー症候群を起こしやすいがん患者の特徴.

トルソー症候群を起こしやすいがん患者の特徴.

 ▽進行期や末期に多発

トルソー症候群はがん細胞が分泌するムチンやサイトカインなどの物質が血栓の形成を促すことによって起こるとされている。そのため、がん患者はがんでない人に比べ、脳梗塞を起こすリスクが約2倍との報告がある。

 千葉県がんセンター(千葉市)脳神経外科の長谷川祐三主任医長は「がん患者に伴う脳梗塞の中には、がんとは無関係なものもありますが、40~50%はトルソー症候群だとされています。がん患者が注意すべき合併症なのです」と説明する。

 トルソー症候群が合併しやすいのは膵臓がんであり、卵巣がん肺がんなどでも多いとされる。「再発や転移を含め、がんの病勢が活発な進行期や末期で生じやすいことが分かっています。卵巣がんの場合、がんの発見に先行して脳梗塞を発症する例もあるようです」と長谷川主任医長。膵臓がんや卵巣がんでは腺がん、特にムチン産生腫瘍と呼ばれるタイプで多く見られるという。

 ▽がん治療と並行し血栓症予防を

 症状は通常の脳梗塞と同じで、ろれつが回らない、手に力が入らず持っている物を落とす、足がもつれるなどの症状が急に表れる。ただし、トルソー症候群では主に小さな血栓が生じるため、症状が軽度で短時間で消失することも多い。「軽度あるいは無症状の脳梗塞は軽く考えられがちですが、それを放置すると重度の脳梗塞を引き起こすことがあります。そうなるとがん治療を続けられなくなり、その後の経過に大きな悪影響を及ぼします」。

 診断の鍵となるのは「小さな梗塞巣が多発しているかどうかを見る画像所見と血液の固まりやすさを反映するDダイマーという血液検査の数値です」と長谷川主任医長。再発を防ぐには「血液を固まりにくくする作用のある抗凝固薬ヘパリンを用いて治療しますが、並行して治療によってがんの進行を抑えることも重要です。また、水分が不足すると血栓が生じやすいため、脱水にならないよう水分摂取に努めてほしい」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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