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脳卒中予防は若い頃からの生活習慣が大事
~高齢者は心房細動に注意~ 【第11回】脳卒中の救急医療③ 国立病院機構九州医療センター 岡田靖副院長

 2019年の人口動態統計によると、脳卒中は「がん」「心疾患」「老衰」に次いで死亡原因の第4位だが、循環器疾患を合わせると後期高齢者の死亡原因の1位を占めている。現在111万5000人が継続的に治療を受けているが(17年時点)、脳卒中発症後には認知機能障害の合併リスクが高まるため、介護への負担増加が問題となっている。

 超高齢社会を迎えた日本においては、いかに健康寿命を延ばすかが課題になっている一方で、脳血管疾患にかかる医療費年間1.8兆円の削減に向けた取り組みも進められている。

リスクに応じた早めの対応を

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 ◇「脳卒中予防の5段階」

 国立病院機構九州医療センター(福岡市中央区)の岡田医師は、脳卒中の予防をゼロ次予防から2次予防まで五つの段階に分け、「脳卒中予防の5段階」と呼んでいる。

 1次予防とは、脳卒中を起こす原因となる高血圧糖尿病といった病気を治すこと、つまり危険因子の治療のことを指す。次に、高血圧糖尿病に罹患(りかん)してから脳卒中の発作を起こすまでの間に「1.5次」という段階があるが、これは症状などは見られないけれど、いつの間にか頭や首の血管が細くなったり、動脈硬化の白質病変(頭の中に白い点々があちこちにできたもの)ができたりしている状態だという。

 「こういう状態の方は、1次予防に加えて、より専門的に脳や首の血管、心血管の経過観察を定期的に行って発作を予防します。さらに進行すると、前回お話しした『崖っぷち警報』の段階になり、ここを過ぎると次は再発防止です」。1次予防の前段階である「ゼロ次予防」は、若い頃からの生活習慣の改善のことだという。

 この中で最も大切なのがゼロ次予防だと岡田医師は指摘する。脳梗塞は生活習慣と密接に関連しているため、両親のどちらかに脳卒中の既往がある場合などは発症のリスクが高くなる。味付けが濃かったり、脂っこい食事が多かったりと、食事や生活習慣を受け継いでいることが多いからだ。特に、両親ともに糖尿病という場合の発症率は75%とも言われているため、30~40代の頃から血圧や血糖などに注意しておくことが重要となる。

 脳卒中の発作はある日突然発生するが、その時に重要なのは前兆である「一過性脳虚血発作(TIA)」を見逃さないことだ。「倒れた時に『助けて~』とは言えませんから、リスクのある人は日頃から発作時の対応について家族とも話し合っておくことが必要です」

 ◇高齢者に多い心房細動

 日本では超高齢社会を背景に脳梗塞が増えているが、その中で約30%を占めているのは心房細動が原因となって起こるタイプのものである。

 心房細動とは、心臓のリズムが乱れる不整脈の一つで、これを要因とするものは、いきなり重症で寝たきりになることが多いため「ノックアウト型脳梗塞」と呼ばれている。

 「高齢者の中には定期的に心電図を取っていないという人も見られます。不整脈に気付かないまま心房細動が起こると、血液がよどみ、心臓の中に血栓ができてきます。そして、ある日ある時、血栓が剥がれて頭に飛んでいくと強いまひ、あるいは症状を呈する心原性脳梗塞を起こします。このタイプは重症化したり死亡したりすることが多く、要介護になるケースも少なくありません」

 さらに岡田医師は、日頃から自分の脈を確認することが必要だと話す。「検脈と言いますが、手の橈骨(とうこつ)動脈に3本の指(人差し指、中指、薬指)を当てて、皮下の拍動(脈)を診るだけなので簡単にできます。不整脈があったら、かかりつけ医で心電図を取ってもらい、心房細動が見つかれば予防薬が投与されるので、心原性脳梗塞による脳卒中の発症を抑えることができます」(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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