四谷メディカルキューブ(東京都)泌尿器科科長の阿南剛氏らは、メディカル・データ・ビジョン株式会社が提供する全国規模の匿名診療データベース解析サービスMDV analyzerを用い、20歳以上の日本人における糖尿病およびSGLT2阻害薬と尿路感染症との関連を検討。その結果、糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の使用が尿路感染症の発症リスクを高めるというエビデンスは認められず、男性および若年女性の糖尿病患者ではリスクが低下したとEndocrine Journal2023年9月6日オンライン版)に発表した。

男女とも非糖尿病患者に比べ糖尿病患者でリスク上昇

 糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するガイドラインでは、尿路感染症に関する注意喚起がなされている。しかし、SGLT2阻害薬と尿路感染症との関連について、日本人でのエビデンスは乏しい。

 そこで阿南氏らは、日本人における糖尿病と尿路感染症との関連、SGLT2阻害薬と尿路感染症との関連を検討するため、全国480施設の匿名医療データを備えたMDV analyzerから20歳以上の男性467万5,035例と女性540万4,110例を抽出し解析に組み入れた。このうち、糖尿病患者は男性97万8,003例、女性68万5,353例で、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン)を処方されていた糖尿病患者は男性18万1,366例、女性8万7,520例だった。

 ロジスティック回帰モデルによる解析の結果、非糖尿病患者と比べ、糖尿病患者では尿路感染症の発症率が男性〔6.98% vs. 4.21%、オッズ比(OR)1.71、95%CI 1.69~1.72〕、女性(8.96% vs. 4.91%、同1.90、1.89~1.92)ともに有意に高かった(ともにP<0.0001)。

適切な投与対象に用いていることが寄与

 また男性の糖尿病患者では、SGLT2阻害薬の処方と尿路感染症の発症との間に有意な負の相関が認められた(OR 0.74、95%CI 0.72~0.75、P<0.0001)。しかし、女性の糖尿病患者における尿路感染症の発症率には、SGLT2阻害薬の有無による有意差がなかった(OR 0.99、95%CI 0.96~1.01、P=0.3497)。

 さらに、年齢別のサブグループ解析を行った結果、男性では39歳以下(OR 0.44、95%CI 0.36~0.55)、40~59歳(同0.65、0.61~0.70)、60歳以上(同0.83、0.81~0.85)の全ての年齢群でSGLT2阻害薬と尿路感染症との間に有意な負の相関が認められた(全てP<0.0001)。女性では、39歳以下(OR 0.73、95%CI 0.62~0.85、P<0.0001)で男性と同様の関連が認められたが、40~59歳(同0.99、0.93~1.05、P=0.7521)、60歳以上(同1.02、0.99~1.05、P=0.2086)では有意な関連が認められなかった。

 以上を踏まえ、阿南氏らは「日本人の糖尿病患者において、性および年齢を問わず、SGLT2阻害薬が尿路感染症の発症リスクを高めるというエビデンスは認められなかった。男性および若年女性の糖尿病患者では、SGLT2阻害薬の非処方例と比べて処方例で尿路感染症の発症率が有意に低かった」と結論。こうした結果をもたらした理由の1つとして、「SGLT2阻害薬が適切な患者に処方されており、再発性尿路感染症を発症しやすい患者への処方は回避されている可能性がある」と考察。SGLT2阻害薬の適応が慢性心不全および慢性腎臓病にも拡大されていることから、「今後、これらの疾患の糖尿病合併例および非合併例を対象にした大規模前向き縦断研究を行う必要がある」と付言している。

太田敦子