2型糖尿病だけではなく、いまや心不全の治療薬として適応が拡大されたSGLT2阻害薬。同薬の使用機会の増加を受け、日本循環器学会と日本心不全学会は昨日(6月15日)、「心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」を発表した。

2型糖尿病の合併や左室駆出率を問わず心不全の治療薬に

 糖尿病治療薬として登場したSGLT2阻害薬は、2017年に『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』において心血管疾患高リスクの2型糖尿病患者に対する心不全予防として推奨クラスⅠ・エビデンスレベルAに位置付けられ、2021年には同ガイドラインのフォーカスアップデート版において、心不全を合併した2型糖尿病患者に対する治療薬として推奨クラスⅠ・エビデンスレベルAの位置付けに至った。

 また、ダパグリフロジンとエンパグリフロジンが左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者を対象とする大規模臨床試験で心不全イベントリスクを低下させ(N Engl J Med 2019; 381: 1995-2008N Engl J Med 2020; 383: 1413-1424)、2020年以降に心不全への適応が拡大された。これを受け、2021年フォーカスアップデート版では最適な薬物治療が導入されているにもかかわらず症候性のHFrEF患者に対する心不全治療薬として、両薬が推奨クラスⅠ・エビデンスレベルAに位置付けられた。さらに、2型糖尿病の有無にかかわらず左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者に対しても、大規模臨床試験でダパグリフロジンとエンパグリフロジンが心不全イベントを抑制することが明らかになり(N Engl J Med 2021; 385: 1451-1461N Engl J Med 2022; 387: 1089-1098)、HFpEFでも適応となった。

 両学会は「SGLT2阻害薬は心血管疾患高リスクの2型糖尿病患者における心不全だけでなく、2型糖尿病の合併や左室駆出率を問わず心不全患者における標準的治療薬の1つとして、使用機会が増加している」と指摘。心不全患者におけるSGLT2阻害薬の適正使用を図るべく、以下6項目のRecommendationを発表した。

Recommendation

⚫心血管疾患のハイリスク2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬は入院を要する心不全イベントの抑制が報告されており、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的にその使用を検討する。

心不全患者において、SGLT2阻害薬(ダパグリフロジンとエンパグリフロジン)は2型糖尿病の合併・非合併および左室駆出率にかかわらず、心不全イベントの抑制が報告されており、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的にその使用を検討する。

心不全患者では利尿薬を使用する頻度が高く、SGLT2阻害薬の併用により過度の体液量減少をきたすリスクがあるため、腎機能や電解質等のモニタリングを適宜行い、必要に応じて利尿薬や降圧薬の用量を調節する。

⚫2型糖尿病を合併したSGLT2阻害薬を使用中の心不全患者が、食事摂取制限を伴う手術を受ける場合には、手術日前から休薬し、術後は食事摂取が可能になってから再開する。一方、2型糖尿病を合併しない心不全患者では、術前の終日絶食日にSGLT2阻害薬を休薬し、術後は食事摂取が可能になってから再開する。なお、2型糖尿病の合併・非合併にかかわらず、SGLT2阻害薬を服用中の心不全患者が緊急手術を受ける場合には、同薬の休薬についてリスクとベネフィットを十分に勘案して現場での判断を許容する。いずれの場合においても、心不全患者においてSGLT2阻害薬を休薬する場合には、休薬に伴う心不全増悪時も含め必要に応じて循環器専門医への紹介を考慮する。

⚫SGLT2阻害薬は、2型糖尿病の合併の有無にかかわらず心不全患者においても尿路・性器感染症の発生・増悪が懸念されるため、リスクとベネフィットを十分に勘案して適応を検討し、投与後は注意を払う必要がある。

心不全患者においてSGLT2阻害薬を使用する場合、各薬剤の添付文書および本Recommendationを踏まえて適正に使用する。糖尿病や慢性腎臓病の併存する病態に応じて日本糖尿病学会および日本腎臓学会のSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendationも参考にする。

(渡邊由貴)