心疾患患者における有酸素運動能力は予後や日常生活に影響を及ぼすとされ、改善には運動療法が推奨されている。神戸大学大学院保健学研究科研究員の尾倉朝美氏と准教授の井澤和大氏らは、重度の腎臓病を持つ心疾患患者では有酸素運動能力に貧血や心機能の低下が影響していること、運動療法の効果は乏しく貧血の治療が優先されるべきであることが示されたとAm J Cardiol(2023年9月7日オンライン版)に発表した。

有酸素運動能力低下の原因は腎臓病の重症度により異なる

 尾倉氏らは、心疾患患者の有酸素運動能力低下の原因は多様であり、また腎臓病合併患者では腎臓病の病態が影響しさらに原因が複雑であることから、有酸素運動能力について腎臓病の重症度別に検証した。

 解析の対象は、2016年4月~21年8月に心肺運動負荷試験を受けた心疾患患者201例。有酸素運動能力は心肺運動負荷試験により得られる嫌気性代謝閾値(AT)、腎臓病の重症度は推算糸球体濾過量(eGFR)を用い、対象を45mL/分/1.73m2未満群(重症群)、45~59mL/分/1.73m2群(中等度群)、60mL/分/1.73m2以上群(軽症群)に分けて評価した。

ATは腎臓病が重症であるほど低値を示した(重症群10.9±2.1mL/分/kg vs. 中等症群12.4±2.5mL/分/kg vs. 軽症群14.0±2.6mL/分/kg、P<0.001)。またAT低値は、重症群ではヘモグロビン値と左室駆出率(順にβ=0.488、P=0.002、β=0.427、P=0.006)、中等症群では安静時からATまでの呼気終末酸素分圧の変化量(ΔPETO2)と有意な関連が認められた(β=0.576、P=0.001)。軽症群でもAT低値とΔPETO2に有意な関連が認められた(β=0.308、P=0.003)。

 ATは乳酸の産生が排出を上回り、蓄積し始めるポイントを示す。腎臓病重症度別のAT低値の原因について、同氏らは、重症群ではヘモグロビン低値(貧血)による解糖系活性や左室駆出率の低下による循環不全、中等症群ではΔPETO2低値(ミトコンドリア機能障害を反映)による乳酸クリアランス低下が引き起こす乳酸の過剰産生であると考察した()。

図.腎臓病重症群、中等度群におけるAT低値の原因

20230922_anemia.jpg

(神戸大学プレスリリースより)

 これらの結果から、同氏らは「有酸素運動能力が低下する原因は腎臓病の重症度により異なるため、腎臓病の重症度に応じた介入が必要であることが示された」と結論。重度の腎臓病を持つ心疾患患者においては貧血の改善を優先し、中等度の腎臓病を持つ心疾患患者においては骨格筋のミトコンドリア機能の改善に向けた運動療法を行うという方向性を示した。さらに、重度の腎臓病を持つ心疾患患者において「患者の健康寿命の延伸や活動範囲の拡大のために、ヘモグロビン値をどの程度まで改善させる必要があるかについて検証していきたい」と展望した。

栗原裕美