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神経、目、腎臓に重大な影響
~糖尿病合併症を知ろう~ 第4回

 今回は高血糖に由来する特有の合併症について解説したいと思います。糖尿病の合併症と言うと、さまざまな疾患が思い浮かびます。問題となっている新型コロナウイルス感染症の重症化、あるいは心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる重篤な疾患などを思い浮かべる方も多いでしょう。

 糖尿病は、生活習慣とは関係がないインスリン分泌不全による1型糖尿病と、主にメタボリックシンドロームから発症する2型糖尿病に分けることができます。「高血糖に特有」というと言い過ぎかもしれませんが、1型でも2型でも主として慢性高血糖に由来する合併症があります。これらは「細小血管合併症」と言われ、①糖尿病性神経障害②糖尿病性網膜症③糖尿病性腎症が該当します。いわゆる3大合併症です。この発症予防や進展予防には、持続した血糖コントロールが重要です。つまり「HbA1c7.0%未満」を目指します。ただ、65歳以上の高齢者については認知機能やADL(日常生活動作)などへの影響を考慮して、少し高い数字を目指す場合もあります。

HbA1cの数値に基づく目標

 ◇早期に発症する神経障害

 まず糖尿病性神経障害です。気を付けたいのは、ストレスなどを原因としたメンタルの病気の神経症とは違うことです。神経障害は3大合併症の中でも最も早く出現するもので、1型でも2型でも発症5~10年程度で約30%の人に認められ、発症30年以上では約60%の人が該当すると報告されています。主に両足のしびれや痛みなどの感覚障害であり、靴下を2枚履いているような感覚などと例えられます。また、就寝時にしびれを感じて眠れなく、ついアルコールを摂取してしまうと話す人もいます。

 近年ではいろいろな薬剤が登場していますが、眠気などの副反応もあり、慢性例では治療に障害を生じる事も報告されています。また自律神経障害による症状も出現します。症状は多岐にわたり診断が難しく、下痢や便秘などの症状さらには、めまいや失神(起立性低血圧=用語説明=)などもあります。さらに、ぼうこうの機能低下による残尿感や勃起障害(ED)なども該当します。

 ◇悪化すると足切断も

 神経障害は命に直結するイメージはないと思います。進行すると知覚が低下し、足の皮膚が一部欠損している足潰瘍や皮膚や皮下組織などが死滅して暗褐色や黒色に変色する足壊疽(えそ)の原因となり、悪化すると足の切断などにつながります。また、ADLも低下します。痛みに関する感覚も低下しますので、無痛性心筋虚血、心筋梗塞になっても症状が出ない事があるので要注意です。これらは合併症としての頻度は高いものの特異的な症状が分かりづらく、気付かれない事が多いのです。診断には比較的煩雑な神経障害の検査が必要となります。心電図検査など比較的簡便なものもありますので、思い当たる症状がある人や糖尿病発病期間が長い人は主治医と相談すると良いでしょう。

糖尿病関係の手帳を利用しよう

 ◇網膜症の原因第3位

 次に糖尿病性網膜症です。その名の通りですが、眼球内の網膜および硝子(がらす)体内に、もろい新生血管が生じて網膜剥離や硝子体出血を起こし、視力障害に陥ります。現在は、糖尿病の治療が進み、日本における視覚障害の主原因疾患としての糖尿病性網膜症は減少傾向にあります。それでも、緑内障、網膜色素変性に次いで第3位です。この合併症は、およそ1型・2型糖尿病患者の2割程度の有病率となります。網膜症の進行のステージによって治療は変わります。内科的には低血糖をできるだけ避けながらの血糖コントロール、一部の降圧薬は網膜症の進行を予防するので高血圧の治療なども実施されます。進行したステージでは、眼科医により光凝固療法や硝子体手術となります。

 網膜症は自覚症状が少なく、突然目の前が暗くなるなどの出血症状から眼科を受診することになる事もあります。そのような事態は避けたいので、定期受診が必要です。これは私自身の自戒の念を含めて話しますが、糖尿病専門医でも通常の外来診察が忙しく、時として眼科受診を指示できてない場合もあります。

 それでも以下のような場合は受診を強くお勧めします。①初めて糖尿病と指摘された場合(既に糖尿病性網膜症を発症している可能性があります)②1年以上眼科を受診されていない場合③HbA1cが8%以上の状態が続いている④低血糖になる時が多い⑤高血圧です。糖尿病は、白内障や緑内障を合併する確率も高いので、その観点からも基本的に眼科受診は必須です。

 網膜症発症・進展予防には、もちろん血糖コントロールを良好にすることが効果的です。患者によっては低血糖状態にあり、なかなかHbA1cを下げられないケースもあります。特に急激な血糖コントロール改善や低血糖などは網膜症を悪化させる場合もあります。そのため内科主治医と眼科主治医の連携も必要です。糖尿病眼手帳や糖尿病連携手帳もありますので、積極的な利用をお勧めします。眼科受診の際には眼底造影検査などが実施されます。目薬の影響などで一時的に目がぼやけるなどの症状が出ますので、当日は車の運転を避け、時間に余裕を持って受診するのが良いでしょう。

アルブミン値などが示す腎症の段階

 ◇最後は腎症に

 最後が糖尿病性腎症です。これは3大合併症の中で最後に出現すると考えられていました。従来、糖尿病性腎症の評価は尿にタンパク質、早期においては微量のアルブミンという物質が検出されるかを指標としてきました。尿検査でタンパク(±)、タンパク(+)という形で検出されていました。しかし、現在の診療では、尿中のタンパク質が陰性つまり、マイナス(-)の状態であっても、腎症の極早期ではタンパク質の一種である、アルブミンが微量に検出される事が分かっています。

 この微量アルブミンが検出された早期の段階から肥満の是正や禁煙、血糖・血圧・脂質異常症のコントロールなどの集約治療を実施すれば、将来的な腎臓の保護につながる事が報告されています。従来の腎症の臨床経過は、尿に微量アルブミンが出現→尿にタンパク質が出現→腎臓の機能低下→腎不全へと移行→人工透析導入というケースが多かったのです。近年では人工透析の導入については、肥満や高血圧合併・治療の変化など、さまざまな要因が出てきて、腎臓の機能低下が先に認められるケースも多くなってきました。

 ◇腎臓保護へ評価法も変化

 このため、従来の尿タンパクを検出するだけの評価方法では糖尿病患者の腎臓の保護が難しいと考えられるようになってきました。尿アルブミン値あるいは尿タンパクと腎臓の機能の指標であるGFR(糸球体ろ過量)の両者で糖尿病性腎症の進展度を評価することになったのです。実際に医療現場でのGFRの評価は、採血検査で出るクレアチニンの数値を基に、年齢や性別に応じて算出する「推定糸球体ろ過量(eGFR)」が使用されています。採血検査の結果に記載されていることが多いので確認してみましょう。

 一方、微量アルブミンは保険診療では3カ月に1回しか検査できず、通常は測定されません。腎症に関しては、遺伝的な要素も影響するため、経過が良くても進行する場合があります。腎症は近年の研究や薬剤開発が著しい分野です。例えば腎症が発症している場合、食事療法は今までのカロリー制限とは異なります。現在では症状が進行すると、むしろカロリーを多めに設定します。逆に塩分制限はより厳格になります。いずれにしろ、一度腎症が進行してしまうと、その進行を食い止めることは現在の医療では、かなり難しいものとなっています。

 ◇薬剤にも期待

 最近多く処方されているSGLT2阻害薬=用語説明参照=については、腎臓保護に有効であるとの報告が多くあります。ごく最近では、一部のSGLT2阻害薬で糖尿病を合併した慢性腎臓病に保険適用された薬剤もあります。しかし、この薬を含めて多くの薬剤は、腎機能がかなり低下した状態では逆に腎臓に負担となり、使用が難しくなります。これらの薬を使わずにインスリン導入を実施する場合なども多いでしょう。

 腎臓の保護を早期から考慮した診療、つまり早期から腎不全予防を考えた治療は超高齢化を迎えている現代社会では、心不全や認知症の予防と同様にとても重要です。定期的な検査結果を患者自身も意識し、自身の状態を把握するようにしましょう。腎機能悪化と心機能悪化は関連が深いと報告されています。次回は心臓保護に関しても解説します。

 ◇用語説明 起立性低血圧
 急に立ち上がったり、起き上がったりした時に血圧が低下し、軽い意識障害、いわゆる立ちくらみを起こす事。

 ◇用語説明 SGLT2阻害薬
 尿に糖を出すことで血糖を下げる飲み薬。その作用から尿路感染となる場合もある。メリットとして体重減少を伴う事が多く、腎臓や心臓に対し保護的に働くと報告されている。(了)

 ▼坂本 昌也(さかもと・まさや)
 医師 医学博士
 国際医療福祉大学 糖尿病・代謝・内分泌内科教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。1997年、東京慈恵会医科大学を卒業。専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では予防医学の観点から糖尿病患者の研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。「最強の医師団が教える長生きできる方法」、「血糖値バイブル」など著書多数。糖尿病治療の啓蒙活動にも力を入れている。

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