治療・予防

皮膚のケアもがん治療の一環 
分子標的薬の副作用に対応

 この20年の間に、がんの増殖に関わる特定の分子を狙い撃ちにする「分子標的薬」と呼ばれる薬剤が相次いで登場し、がん治療の中心になりつつある。効果が大きい一方で、副作用に悩まされる人も多い。その一つが皮膚の障害で、聖路加国際病院(東京都中央区)皮膚科の新井達部長は「がん治療を継続するためにも、適切な対応が必要です」と話す。 

 ▽にきびのような発疹

 分子標的薬は50種類以上あり、さまざまな種類のがんで用いられている。

 薬によって出現する副作用は異なり、「肺がんに使われるEGFR(上皮成長因子受容体)阻害薬というタイプでは、にきびのような発疹、皮膚の乾燥、爪周囲の炎症がよく見られます」と新井部長は説明する。

 発疹は、顔などに50~100個できることもあるという。外見が気になり、人と会うのが苦痛になる例も見られる。皮膚が乾燥すると衣類との摩擦などでかゆみが生じて集中力や睡眠を妨げ、爪の周囲が赤く腫れ上がると痛みで歩きづらくなる。

 EGFR阻害薬が標的とするEGFRというタンパク質は、肺や大腸のがん細胞に過剰に存在するが、皮膚の正常な細胞にも分布し、増殖などに関係している。そのため、皮膚の再生が阻害されたり、水分を保持する力が低下したりして皮膚障害が表れると推測されている。「薬が効いている人は皮膚障害が出やすい傾向があります」と新井部長。

 ▽清潔と保湿

 望ましいのは、分子標的薬による皮膚障害を予防・治療しながら、がんに対する効果を得ることだ。新井部長は「がんの診療科と皮膚科が協力して皮膚障害をコントロールし、分子標的薬を続けるのがベストです。患者の負担が大きい場合は、がん治療医の判断で減量または中断し、皮膚障害が落ち着くのを待って少量で再開する場合もあります」と説明する。

 皮膚障害が出現した際の治療法として、にきびのような発疹と爪周囲炎には、炎症を抑えるステロイド薬の塗り薬が使われる。重症の場合は、炎症を抑える作用と抗菌作用を併せ持つ飲み薬を追加する。乾燥に対しては保湿用の塗り薬を用いる。

 患者が日常生活で行うスキンケアも重要だ。新井部長は「皮膚を清潔に保ち、保湿を心掛けることが基本です。長風呂は避けて、せっけんをよく泡立てて優しく体を洗いましょう。冬は皮膚の乾燥を防ぐため、エアコンで室温を上げ過ぎないようにしましょう」とアドバイスする。 (メディカルトリビューン=時事)


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