アルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)の正確な診断には、身体的負担が大きい脳脊髄液の採取や放射線被曝を伴うPET検査が必要であるため、臨床症状から診断されることが多いのが現状だ。東北大学大学院薬学研究科特任准教授の川畑伊知郎氏らは、負担が小さい微量採血により検出できる脂肪酸結合蛋白質(FABP)のバイオマーカーとしての有用性を検討。複数のFABPを組み合わせることでADやDLBなどの認知症パーキンソン病(PD)を早期に検出し、発症前に予測できる可能性があると、Int J Mol Sci 2023; 24: 13267に発表した。

全ての神経変性疾患で血中FABP3濃度が上昇

 川畑氏らは以前の研究で、FABPがDLBの原因蛋白質であるαシヌクレインの神経細胞への取り込みと毒性発現に関連することを明らかにしている(Int J Mol Sci 2019; 20: 5358)。DLBでは脳内にαシヌクレインが蓄積されるが、この過程にはFABP3が関与しており、FABP5はαシヌクレインによるミトコンドリア傷害に、FABP7はオリゴデンドロサイト変性に関連することが報告されている。そのため同氏らは今回、神経変性疾患の予測マーカーとしてFABPに着目した。

 FABPの神経変性疾患のバイオマーカーとしての有用性を検討するため、国立病院機構仙台西多賀病院で採取した患者394例〔PD群89例、DLB群47例、AD群147例、軽度認知障害(MCI)群111例〕と健康対照群30例の検体を用い、血中FABP濃度を比較した。

 その結果、FABP3濃度は健康対照群に比べ全ての疾患群で有意に高値だった(AD群、DLB群、MCI群:P<0.0001、PD群:P<0.01)。FABP5およびFABP7濃度は健康対照群に比べてAD群で有意に低く(P<0.05)、FABP2濃度はAD群と比べPD群で有意に高かった(P<0.05)。以上から、FABPはAD、PD、DLB、MCIを鑑別するバイオマーカーになることが示唆された。

 さらにFABPが各疾患における認知機能低下の予測に有用であるかを検討するため、既知のバイオマーカーを測定し相関分析を行った。血中αシヌクレイン濃度は全てのグループで低下し、AD群では有意な低下が見られた。

 FABP3高値は認知機能〔Mini Mental State Examination(MMSE)〕および運動機能の低下との有意な相関が見られ(順にr=-0.30、r=-0.34、全てP<0.0001)、タウ蛋白質、グリア細胞線維性酸性蛋白質(GFAP)、ニューロフィラメント軽鎖(NF-L)、UCHL1など既知のバイオマーカーとMMSEスコアとの間にも有意な相関性が見られた(全てP<0.0001)。

スコアリングにより精度の高い鑑別が可能に

 また川畑氏らは、FABPを含む複数のバイオマーカーを組み合わせて各疾患を鑑別するためのスコアリング法により、疾患リスクスコアとその感度、特異度を示す受信者動作特性(ROC)曲線化面積(AUC)を検討した。その結果、MCI群対健康対照群、AD群対DLB群、PD群対DLB群、AD群対PD群の比較において、高い精度で疾患を判別できた(順にAUC=0.9321、AUC=0.8531、AUC=0.8831、AUC=0.8593、全てP<0.0001、)。

図. マルチマーカーのスコアリングによる疾患リスク値と特異度を表すAUC曲線

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(東北大学プレスリリースより)

 これらの結果を踏まえ、同氏は「複数のFABPを組み合わせたスコアリング技術によりMCI、AD、PD、DLBが高精度に鑑別できる可能性がある」とし、「臨床症状だけでは診断が付きにくい神経変性疾患患者のリスク予測に有用である」と結論。「現在、医療機関や個人での使用に向け実用化を進めており、認知症やPDの発症前予測が可能になれば早期治療介入と根本治療が期待できる」と展望している。

栗原裕美