企業から自治体に自社製品を「寄贈」する行動をきっかけに、住民福祉の向上やより良い施策に結び付ける官民連携の枠組み「アリアドネ」が8月から始まり、全国26自治体に広がっている。在庫が余り廃棄が出やすい商慣行の下、「もったいないので使ってもらう」切り口で、まずは大手メーカーなど10社が参画。子育てや防災分野で効果が表れている。
 大阪府柏原市が9月に開いた子育てイベントで、来場者に新品のベビーソープが配られた。衛生用品大手サラヤ(大阪市)が昨年製造した旧パッケージの品だ。同社が寄贈した在庫8000個を、市が妊産婦らに配布。冨宅正浩市長(47)は「住民サービスを補完できる」と歓迎する。
 他の自治体でも、森永乳業グループやピップ(大阪市)などが熱中症対策ゼリーや着圧レギンスを寄贈。自治体が市民や福祉施設などに配ることで、市民らとの接点強化につなげた。
 こうした製品は商慣行上、廃棄せざるを得なかったものばかりだ。食品は製造日から賞味期限までの期間の3分の1以内に小売りに納品する「3分の1ルール」を守らなければ返品される。日用品も新旧製品の入れ替えで一度に大量の返品が出る。サラヤの山田哲取締役(54)は「作るより捨てる方が手間がかかる」と明かす。
 アリアドネでは、企業が自治体に寄贈すれば有効活用される上、処分費の圧縮にもなる。連携と寄贈を意味する英語「アライメント」「ドネーション」を組み合わせ、ギリシャ神話で英雄を助けた女性の名前にもちなんだ。
 新たな視点の施策も生まれている。柏原市や北海道登別市では、ベビー用品のピジョン(東京都中央区)監修で「赤ちゃんの防災」がテーマの特集を広報紙に掲載。子どもの靴や哺乳瓶の消毒用具など忘れがちな災害備蓄をリストで示した。登別市の担当者は「われわれでは考えつかない情報」と感服する。
 アリアドネを構築したのは、180自治体以上と連携実績のある「官民連携事業研究所」(大阪府四條畷市)。参加企業の健全性などを同社が審査し、自治体が寄贈の申し出を受け入れるか決める仕組みだ。鷲見英利社長(47)は「複数企業が得意分野を生かした総合力ある施策を展開すれば、大きなインパクトがある」と強調。50自治体、100企業の参加を目指す。 (C)時事通信社