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トランスジェンダー、医療にアクセスできぬケース多く
~LGBTQの8割が行政・福祉サービス利用で困難~ 関係者の理解不足浮き彫りに―NPO調査

 生活困窮や精神障害などから国や自治体などの行政・福祉サービスを受けるLGBTQ(性的少数者など)の8割が、それら機関のセクシュアリティー(性の在り方)に関する理解不足からサービス利用時に困難を感じ、病状や困難状況をより悪化させているなどとする調査結果を、支援する認定NPO法人「ReBit」(リビット、東京)がまとめた。医療サービスを利用するトランスジェンダー男性・女性に限っては、医療機関での同様の困難経験をしたうちの約4割が、体調が悪いにもかかわらず病院を受診できていない実態も明らかになった。LGBTQの行政・福祉サービス利用に焦点を当てた大規模な調査は初とみられ、貴重なデータとなりそうだ。(時事通信編集委員・長橋伸知)

 調査は1〜2月、全国の18〜60歳代のLGBTQを対象にインターネット上で実施し、961人の有効回答を得た。回答者の属性分布はLGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル)等44.8%、トランスジェンダー53.3%、その他1.9%。

 ◇セーフティーネット利用できない現状

 調査結果によると、LGBTQが過去10年の間に障害や生活困窮に関連して行政・福祉サービスを利用した際、約8割に当たる78.6%が、セクシュアリティーに関する困難を経験。また、それによって3人に1人が心身の不調を悪化させ、5人に1人が自殺念慮、自殺未遂を経験していた。

 こうした困難を経験した理由について聞いたところ、主に①支援者のLGBTQに関する理解不足②LGBTQをサービスの利用者として想定した体制が社会に整備されていないこと③福祉機関などから、セクシュアリティーを含め安全に相談できるかが広く周知されていないこと──の3点に大別された。

 行政・福祉関係者にセクシュアリティーを安心して話せるか聞いたところ、LGBTQの95.4%が「安心して話せない」と回答している。これは、ハラスメントやアウティング(第三者にセクシュアリティーを勝手に暴露されること)への恐れが大きく関係しているとみられる。セーフティーネット(最悪の事態を避けるために用意された安全網)であるはずの行政・福祉サービスを安全に利用できず、困難をより深刻化させている現状が浮き彫りになった。

 調査の自由回答には「精神・発達障害があり、就労継続支援事業所に通っていたが、事業所内でLGBTQへの差別的会話がされるたびにハラハラした。支援員にも全く知識がなく、カミングアウト後も私にどう接していいか分からないようだった。事業所に通い続けることができなくなり、病状が悪化した」(20代、レズビアン)などの声が寄せられた。

 LGBTQは、セクシュアリティーに関するハラスメントなどの経験者が多く、社会的要因などから何らかの精神障害を有する割合が高いことが分かっている。今回の調査でも、過去10年に41.2%が精神障害(うつ病、パニック障害など)を経験し、18.2%が精神障害保健福祉手帳を所持した経験があることも分かった。また、約半数に当たる46.8%が生活困窮を経験。「預金残高が1万円以下になったことがある」が26.4%もいた。健康保険料、年金保険料を滞納した人も11.8%に上った。

 障害や難病があるLGBTQは、それがない当事者に比べて「生活保護や給付金等の金銭的支援を受けた/必要とした」との割合が7.5倍高く、こうした「複合的マイノリティー」ほど困難経験の割合が高いことも分かった。

 ◇約8割が医師に安心して話せず

 また、医療サービス面を調査したところ、LGBTQ全体の66.1%、トランスジェンダー男性・女性の77.8%がセクシュアリティーに関連する困難を経験していた。

 その影響で、トランスジェンダーの42%が体調が悪くても病院を受診できておらず、25%が自殺念慮や自殺未遂を経験していたことも分かった。

 医療関係者にセクシュアリティーについて安心して話せないLGBTQは81.3%に上った。その理由は「どの医療者に、セクシュアリティーを含めて安心して相談できるか分からなかった」と周知不足を挙げた割合が46.9%、「医療者にセクシュアリティーに関する知識、理解がないか、または不足していた」が34.6%と多かった。セクシュアリティーが原因で、病院の利用をためらっているトランスジェンダーも38.1%いた。

 医療者がセクシュアリティーについて理解を深め、当事者が安心して相談できる体制や環境を構築し、その情報を広く発信し周知することが求められており、医療という生命や健康の維持に影響するサービスを安全に利用できず、困難がより深刻化し自殺未遂にもつながっている現状への対策は喫緊の課題と言える。

 医療サービスに関する自由回答には「病院の問診表にホルモン投与をしていることを書いたところ、医師に『ふーん』と笑われ、上から下までじーっと見られた」(30代、トランスジェンダー男性)。戸籍上同性のカップルからは「病院で同性パートナーが家族として扱われず、入院時の身元保証人になれず、家族カンファレンスへの参加も許されなかった。手術待合室での待機や集中治療室での面会などすべてできなかった」との声が寄せられた。

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