「医」の最前線 地域医療連携の今

増加傾向にある心房細動
~4割の患者に症状が見られず~ 【第17回】心房細動治療の医療連携① 福岡山王病院ハートリズムセンター長 熊谷浩一郎医師

 心臓は血液を全身に循環させるポンプのような役割を担っており、規則正しいリズムで鼓動を続けている。このリズムに異常を来した状態を不整脈と言い、幾つかのタイプに分けられる。このうち、日本の高齢化に伴い増加しているのが心房細動だ。この傾向は今後さらに加速することが予測されており、健康寿命を延ばすことは現代医療における重要な課題となっている。脳梗塞の危険因子である心房細動治療に取り組んでいる福岡山王病院(福岡市早良区)の熊谷浩一郎ハートリズムセンター長は「定期検診を受けること、早期発見することがとても重要」と話す。

四つの部屋から構成されている心臓は、24時間規則正しいリズムで鼓動を続けている(熊谷浩一郎医師提供)

四つの部屋から構成されている心臓は、24時間規則正しいリズムで鼓動を続けている(熊谷浩一郎医師提供)

 コロナ禍における心房細動治療

 循環器疾患は高齢化に伴い増加しており、罹患(りかん)者数および死亡者数ともに今後さらに増え続けると推定されている。

 「日本人の平均寿命は延びましたが、平均寿命と健康寿命には10年の乖離(かいり)があると言われています。その原因の4分の1が脳卒中と循環器病です。また、医療費のトップを占めているのも循環器病で、循環器疾患と脳疾患を減らすことは喫緊の課題となっています」と熊谷医師。

 高血圧などの循環器疾患は症状が表れないこともあり、知らないうちに進行していることも少なくないが、がんをはじめとする他の疾患同様に早期発見が重要となる。

 「新型コロナウイルス感染症の拡大によって、開業医の先生方からの紹介が4分の1程度減少しました。コロナ感染を恐れて、患者さんが専門病院での治療を控えるようになったからです。開業医の先生が治療の必要性を説明しても、『入院はしたくないので薬で何とかしてほしい』と言われることが多いそうです。心房細動は症状のない患者さんが4割ほどいますが、コロナ禍においては症状がなければ治療を受けたくないというのが現状のようです」

福岡山王病院ハートリズムセンター長 熊谷浩一郎医師

福岡山王病院ハートリズムセンター長 熊谷浩一郎医師

 不整脈の種類

 心臓は筋肉でできた臓器で、左右それぞれ心房と心室と呼ばれる四つの部屋から成り立っている。心臓の拍動(心拍)は電気が筋肉に流れて興奮することで起こるが、この電気は右心房にある洞結節という所で作られる。こぶし大ほどの大きさの心臓は1分間に約60~100回、1日にすると約10万回の鼓動を打っているが、洞結節以外の別の場所から電気が流れるとリズムが乱れて不整脈として表れる。

 不整脈は脈(心拍)が速くなる頻脈や遅くなる徐脈、脈が飛ぶ期外収縮などに分けられる。頻脈型の不整脈は、さらに心房由来の上室性(心房性)と心室由来の心室性不整脈に分類される。

 一般的に上室性不整脈は良性のことが多いが、発作性の頻拍症などでは動悸(どうき)の原因となり、生活の質を低下させることがある。一方、心室性の不整脈のうち心室頻拍や心室細動は、突然死の原因となる代表的な不整脈として知られている。

 心室性不整脈狭心症や心筋梗塞などの心臓病が基になって発生することがあり、心機能が悪ければ悪いほど不整脈の程度も悪くなる。また、心臓病がない場合でも発生することがあるが、このタイプの不整脈は比較的良性とされている。

 放置していても心配のない不整脈もあるが、自覚症状の強い不整脈や生命の危険が高い不整脈については適切な治療が必要になる。

 熊谷医師は「不整脈の中でも頻度の高いのが心房細動です。心房細動がある人は、ない人よりも生命予後が悪く、死亡率が1.5倍と言われています。一番問題となるのは脳梗塞の原因になることです。心房細動脳梗塞を起こすと、1年後には2人に1人が亡くなります。5年後の生存率は30%です。認知症の原因にもなり、一度脳梗塞を起こすと心筋梗塞よりも予後が悪いと言われています」と注意を促している。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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