治療・予防

心房細動による脳卒中を予防
注目される左心耳閉鎖術 (東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 原英彦准教授)

 心臓が不規則に拍動する心房細動は、心臓でできた血の塊(血栓)が脳の太い血管に詰まる心原性脳梗塞の原因となる。血栓予防の薬物療法には出血のリスクがあるため、血栓ができやすい部分に特殊な器具を埋め込んでふさぐ「左心耳閉鎖術」が新たな選択肢として注目されている。東邦大学医療センター大橋病院(東京都目黒区)循環器内科の原英彦准教授は「一度手術をすればほとんどの場合、血液をさらさらにする抗凝固薬を中止可能なので、今まで出血を心配しながら薬を飲んでいた患者さんのQOL(生活の質)向上につながります」と強調する。

血栓予防の薬物療法により、日常的に皮下出血や鼻出血が起こる

血栓予防の薬物療法により、日常的に皮下出血や鼻出血が起こる

 ▽心房細動を見逃さない

 心房細動は脈の間隔が不規則になる不整脈。最初は発作的に起きていたものが、徐々に頻繁になり、慢性化していく。患者は高齢になるほど増え、男性に多い。

 心房細動があると心臓に大きな血栓ができやすく、それが流れて脳の太い血管が詰まると心原性脳塞栓症が起こる。脳梗塞の中でも重症化しやすく、半数以上が死亡あるいは重い後遺症のために寝たきりか車いす介助が必要になる。動悸(どうき)息切れなどの自覚症状がまったくない場合でも、心房細動脳梗塞の発症や死亡のリスクになる。原准教授は「健康診断で心房細動があると言われたら、放置せずに必ず循環器内科を受診してください」と呼び掛ける。

 ▽左心耳を閉鎖

 心房細動が見つかった人の多くが、長期にわたって抗凝固薬を服用し血栓を予防している。しかし、服用中は日常的に鼻出血や皮下出血などに悩まされる上、脳出血を起こす危険もある。出血を心配しながら薬を飲み続けるのはストレスだ。また、入院を要するような出血が起これば服薬を中止せざるを得ず、再び脳梗塞のリスクが浮上する。

 そこで、抗凝固療法に代わる治療の選択肢として、2019年9月に左心耳閉鎖術が登場した。心房細動による血栓ができやすい左心房の左心耳をふさぐことで血栓ができないようにする手術法だ。太ももの付け根部分の静脈からカテーテルという細い管を心臓まで挿入し、形状記憶合金製の器具を左心耳に固定する。全身麻酔が必要だが、手術時間は30分~1時間ほど、3泊4日程度の入院で済む。

 「心房細動のある日本人を対象とした試験で、左心耳閉鎖術の有効性が示されています。転倒などにより出血を起こしやすい高齢者にも検討できるでしょう。高齢だからと諦めず、最後までQOLを保ち元気に過ごすための治療の選択肢として知っておいてほしい」と原准教授は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

【関連記事】


新着トピックス