全身性エリテマトーデス(SLE)は発熱や関節痛などの全身症状、皮膚症状が見られる疾患で、心、腎、肺などに重篤な症状が現れることもある。病変が皮膚に限局した皮膚エリテマトーデス(CLE)では血栓塞栓性疾患との関連性が指摘されているが、エビデンスとして評価しうるデータはない。ドイツ・University of LübeckのHenning Olbrich氏らは、国際研究ネットワークTriNetXのデータを用いて、CLEと心血管疾患(CVD)との関連を後ろ向きに検討。CLEおよびそのサブタイプではCVD発症リスクが高いことをEBioMedicine2023; 93: 104639)に報告した。

大規模データベースの利用で、患者少数のサブタイプも検討

 CLEの病態にはヘルパーT細胞(Th)1/Th17炎症反応が関与することから、心血管合併症のリスクが高いとされ、アテローム性動脈硬化症心不全、静脈血栓塞栓症などがCLE患者で多く見られるとの報告が複数なされている。しかし、いずれも小規模な後ろ向き研究である上、評価設定が研究によって異なるなどの問題が多く、CLEにおけるCVDの発症リスクについて明確なエビデンスはない。また、CLEの主要なサブタイプである円板状エリテマトーデス(DLE)や亜急性皮膚エリテマトーデス(SCLE)は患者数が少ないことから、層別化しての検討もなされていなかった。

 そこで、Olbrich氏らはデータ収集当時約1億2,000万人のデータにアクセス可能であったTriNetXを利用。国際疾病分類第10版(ICD-10)でCLE、DLEまたはSCLEと診断後12カ月以上経過した18〜85歳の患者それぞれ3万315人、2万7,427人、1,613人を抽出し対象とした。SLE患者は除外した。対照群はCLEまたはSLEと診断されず、ICD-10で「愁訴、診断の疑いまたは報告がない一般診察のための受診」に該当する439万30人とした。

 CLE群(診断時平均年齢51.08歳)とDLE群(同50.66歳)には黒人/アフリカ系アメリカ人が多く含まれ、SCLE群(同58.15歳)には白人が多く、アジア人は疾患群3つの全てで少なかった。また、3群とも女性が8割近くを占めたのに対し、対照群(同45.65歳)は6割弱であった。この4群を対象に、CVDの発症リスクについて後ろ向きの傾向スコアマッチングコホート研究を行った。

CLEおよびDLEの男性患者で極めて高い心内膜炎リスク

 表に示す通り、対照群と比べCLE群およびDLE群では動脈血栓塞栓症、肺塞栓症、急性心筋梗塞脳梗塞などの血栓塞栓症の発症リスクが有意に高かった。SCLE群は動脈血栓塞栓症のみ高かったが、他では差が見られなかった。エリテマトーデス診断後5年以内の虚血性脳梗塞、心筋梗塞、心不全、心室性不整脈、心臓突然死、心原性ショックを含む主要心血管イベント(MACE)リスクを解析したところ、疾患群3群ともにリスクの上昇が示された。なお、診断後5年以内の全死亡リスクは、SCLE群が最も高く、MACEとは一致しないことからSCLE群の死亡にはCVD以外が関与していると推測された。

表. 疾患群のCVDおよび全死亡リスク

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(EBioMedicine 2023; 93: 104639を基に編集部作成)

 Olbrich氏らが「特筆すべき」としたのはCLE群およびDLE群の心膜炎リスクの高さで、男女別の解析では男性で極めて高いことが明らかになった(CLE群:男性ハザード比 1.918、女性同1.252)。

 同氏らは「大規模データベースを利用することで、CLEとそのサブタイプの患者におけるCVDリスクを評価するのに十分なサンプルサイズを得た。今回の検討でCLE患者がCVDリスクを抱えることを明らかにし、CLEの管理とCVD発症予防に臨床的な示唆を提供することができた」としている。

(編集部)