米・Vertex PharmaceuticalsのJim Jones氏らは、電位依存性ナトリウム(Na)チャネルNav1.8の選択的阻害薬VX-548の急性疼痛への有効性を検証するプラセボ対照第Ⅱ相二重盲検試験2件の結果をN Engl Med(2023; 389: 393-405)に報告。「プラセボ群と比べVX-548高用量群では、腹部形成術または腱膜瘤切除術施行後48時間の急性疼痛が軽減された」と述べた。

腹部形成術/腱膜瘤切除術後に服用、48時間の効果を検証

 急性疼痛の治療は疼痛知覚の中枢機構を標的とするオピオイドがしばしば用いられるが、安全性や依存への懸念から使用は制限される。侵害信号の伝達に関わる電位依存性NaチャネルNav1.8は、後根神経節の末梢侵害ニューロンに選択的に発現することから、疼痛の治療標的として注目されている。

 今回の2件の試験期間はいずれも48時間。1つ目の試験は腹部形成術(軟部組織の痛みのモデル)直後の患者を対象としたもので、参加者を①高用量群(VX-548 100mgを初回負荷用量として服用。その後、維持用量として50mgを12時間ごとに服用)、②中用量群(初回負荷用量60mg、維持用量は30mgを12時間ごと)、③ヒドロコドン/アセトアミノフェン群(ヒドロコドン5mgとアセトアミノフェン325mgを6時間ごとに服用)、④プラセボ群(プラセボを6時間ごとに服用)--に1:1:1:1で割り付けた。

 2つ目の試験では腱膜瘤切除術(骨の痛みのモデル)後の患者を①高用量群、②中用量群、③低用量群(初回負荷用量20mg、維持用量は10mgを12時間ごと)、④ヒドロコドン/アセトアミノフェン群、⑤プラセボ群--に2:2:1:2:2で割り付けた。

 主要評価項目は48時間における痛みの強度差の合計(sum of the pain-intensity difference;SPID48)。SPIDはNumeric Pain Rating Scale 〔NPRS:痛みなし(0)~想像できる最大の痛み(10)の11段階で、現在の痛みの程度を評価〕のスコアを基に計算した。主解析は各用量群とプラセボ群との比較で行った。

高用量群でSPID48が改善

 腹部形成術試験は2021年8月~11月に米国の7施設で、腱膜瘤切除術は2021年7月~22年1月に米国の9施設で実施された(腹部形成術試験に参加の7施設は腱膜瘤切除術試験にも参加)。対象は18~75歳で、NPRSで4点以上と答えた患者のみを対象とした。

 腹部形成術試験の登録者数は303例で、高用量群とプラセボ群の時間加重SPID48は37.8(95%CI 9.2~66.4)だった。一方、腱膜瘤切除術試験の登録者数は274例で、高用量群とプラセボ群の時間加重SPID48は36.8(同 4.6~69.0)だった。

 中用量群(腹部形成術試験)、中用量群と低用量群(腱膜瘤切除術試験)の成績はプラセボ群と同等であった。また、VX-548服用群では頭痛便秘が多かった。

臨床的に意味のある効果量かは断言できず

 以上の結果を踏まえ、Jones氏らは「VX-548はNav1.8電流を強力に阻害する小分子であり、Navの中でもNav1.8に対する選択性が特に高いことがin vitroで確認されている。Nav1.8をコードするSCN10Aはヒトの脳ではほとんど発現していないことから、Nav1.8を選択的に阻害しても中枢への影響の可能性は低い」と同薬による乱用や依存リスクが低い可能性に言及。ただし「今回の試験ではこれらのリスクは検証されていない」と指摘。

 また、今回得られたSPIDが臨床的に意味のある最小重要差(minimally clinically meaningful)といえるかどうかについては「広く認められた効果量(effect size)は定まっていない。今回の試験はヒドロコドン/アセトアミノフェンとの直接比較ではないため、標準的な鎮痛薬と比べた疼痛軽減効果の大きさを評価することは困難である」とし、「ヒドロコドン/アセトアミノフェンと比べたVX-548の治療効果は現在進行中の第Ⅲ相試験(NCT05558410NCT05553366)で検討中である」と付言している。

木本 治