ナルコレプシーは日中の過度の眠気を特徴とする睡眠障害で、覚醒に関与する脳内神経ペプチドのオレキシン(OX)が欠乏することにより引き起こされ、情動性脱力発作(カタプレキシー)を伴う1型(NT1)と、OXは正常または軽度の低下で発作を伴わない2型(NT2)に分類される。フランス・University of MontpellierのYves Dauvilliers氏らは、NT1患者を対象に新規経口OX2受容体作動薬TAK-994の有効性と安全性を検討する第Ⅱ相試験を実施。同薬はプラセボと比べ眠気と情動性脱力発作を改善したが、肝毒性の発現により試験は早期中止となったことをN Engl J Med2023; 389: 309-321)に報告した。この結果を受けて、開発元の武田薬品は同薬の開発中止を発表。ただし、NT1治療標的としてのOX2受容体の重要性は示されたとして、他のOX2受容体作動薬については開発を継続するという。(関連記事「武田の新規ナルコレプシー治療薬の第Ⅱ相が早期中止、安全性の懸念」)

開発薬3用量とプラセボに割り付け覚醒尺度で評価

 NT1は、OX欠損による日中の耐えがたい眠気の他に、喜怒哀楽による感情の激高により全身の筋肉が脱力する情動性脱力発作を特徴とする。現在、機序の異なる治療薬が複数存在するが、いずれも症状を部分的に軽減できるのみである。

 2種類あるOX受容体のうち、OX2受容体が覚醒に関与している可能性が前臨床試験で示されたことを受け、武田薬品はTAK-994を含む複数のOX2受容体作動薬を開発中である。

 今回の第Ⅱ相試験では、NT1患者73例(平均年齢31歳、女性58%)をTAK-994 30mg群、同90mg群、同180mg群とプラセボ群(全て1日2回投与)に、1:1:1:1でランダムに割り付け、8週間治療した。

 主要評価項目は、8週時における睡眠潜時(臥床から眠りにつくまでの時間)のベースラインからの平均変化量とした。評価には、Maintenance of Wakefulness Test(MWT:覚醒の維持を0〜40分で評価し、20分以上を正常とする)を用いた。副次評価項目は、エプワース眠気尺度(ESS)スコア(0~24点:高スコアほど日中の眠気が強い、10点未満が正常)の変化量、1週間当たりの情動性脱力発作の発現率とした。

8週の治療で症状が健康なレベルまで改善

 ベースラインの患者背景は4群で差がなく、平均MWTスコアは5.8±6.5だった。

 第Ⅱ相試験終了後の延長試験中も含め、8例で肝酵素値(ALT/AST)が中止基準を上回り、そのうち3例は薬剤起因の肝毒性を示すHy's Lawの基準に合致したため、試験は早期に中止された。

 そのため主要評価項目の解析対象は41例(56%)だった。8週時における平均睡眠潜時の最小二乗平均変化量は、TAK-994 30mg群で23.9分、同90mg群で27.4分、同180mg群で32.6分で、プラセボ群(-2.5分)との差は、それぞれ26.4分、29.9分、35.0分だった(全てP<0.001)。

 プラセボ群と比べたTAK-994群のESSスコアの平均変化量は、TAK-994 30mg群で-10.1点、同90mg群で-11.4点、同180mg群で-13.0点だった。プラセボ群に対するTAK-994群における情動性脱力発作の週間発現率比は、それぞれ0.05、0.20、0.15だった。

 TAK-994群の79%(56例中44例)で有害事象が発現した。頻度が高かったのは、尿意切迫感と頻尿だった。

 以上の結果を踏まえ、Dauvilliers氏らは「TAK-994の開発は中止となったが、今回の第Ⅱ相試験では8週間の投与でMWTとESSが健康なレベルまで改善し、情動性脱力発作もほぼ消失した。ナルコレプシー治療における生物学的標的としてのOX2受容体の重要性が示された」と結論。武田薬品では、引き続き経口OX2受容体作動薬TAK-861と静脈内投与のOX2受容体作動薬TAK-925の第Ⅱ相試験を進めている。

(小路浩史)