アルツハイマー病治療薬レカネマブの薬事承認が21日、厚生労働省の専門部会で了承された。待望の新薬に、患者の家族らは「治療に道筋が見えた」「一人でも多く救えたら」などと期待を寄せた。
 京都市の鎌田松代さん(67)は2004年から11年間、特別養護施設などで看護師として働きながら、佐賀県に住むアルツハイマー型認知症の両親を遠距離介護した。農業をしていた父が急に機械の操作が分からなくなり、生活が不自由になる姿に「切なく、情けなく、腹立たしさがあった」と、当時の心境を明かす。
 両親とも15年に80代で他界したが、「レカネマブの対象となるなら使ってみたかった」と言う。「治らない病気だったのが、治療への道筋が見えたことがうれしい。病気の解明にも光が当たったと思う」と期待しつつ、「身近な所で検査や治療ができ、価格も年金で払える範囲になってほしい」と語る。
 東京都品川区の会社員の女性(57)は約3年前、80代の母親が認知症の疑いがあると診断された。鍋に火を付けたのを忘れ、テレビを見る母。「二つの記憶が重なると最初の記憶が消える」とし、「レカネマブで治療の選択肢が広がったので歓迎したい。投与対象も広がってほしい」と話した。
 昨年、89歳で認知症の母を亡くした杉並区の薬剤師の女性(54)は約5年間、介護を続けてきた。当時服用していた抗認知症薬の副作用などから、いら立って父と口論する姿も見てきたが、「笑顔を見せる母はかわいくて仕方がなかった」と振り返る。「治療薬ですてきな時間を延ばせるのであればいいなと思う。救われる人が一人でもいたら」と願った。
 レカネマブの投与対象は、現在600万人と推計される患者の一部に限られる。鎌田さんが代表理事を務める支援団体には「中・重度の患者にも適用できる新薬も開発してほしい」との声も。対象外と知った家族の落胆は大きく、要望は切実という。 (C)時事通信社