「医」の最前線 地域医療連携の今

新薬の開発で治療効果にさらなる期待
~治験情報の共有やカウンセリング体制の支援~ 【第7回】がんの医療連携③ 九州がんセンター乳腺科部長 徳永えり子医師

 乳がんは薬物療法が有効ながんの一つであり、新薬開発のための治験も盛んに行われている。しかし、限られた情報の中では参加したいと思っても参加できないというケースも少なくない。九州がんセンター(福岡市)では、地域の医療機関に治験情報を流すことで治験の連携体制を構築している。

治験で安全性や有効性を確認して新たな治療法(標準治療)ができる

 ◇患者の希望も取り入れ連携

 乳がんは、術後に抗がん剤治療やホルモン療法などが必要になることも少なくない。また、術後は定期的な経過観察も行われるため、手術が終わっても、それで終わりというわけではない。

 抗がん剤治療は外来化学療法の普及により、薬剤によっては外来での抗がん剤治療が可能となった。このような背景もあり、がんセンターのような専門病院の医師とかかりつけ医との連携はさらに必要とされている。

 同センター乳腺科の徳永えり子部長は「福岡市は乳がん専門医のクリニックが多い地域です。福岡市のように専門の医療機関が多い場合は、さらに密な連携を取りながら、そのままかかりつけ医に治療を引き継いでもらうこともあります。その方が患者さんにとっても楽だからです」と説明する。

 連携を行うに当たっては患者の希望も取り入れながら進めるという。「術後の抗がん剤治療など大変な部分を当院で行って、ホルモン療法だけクリニックで行うとか、経過観察だけになった段階でかかりつけ医に戻すとか、患者さんの希望も聞きながら連携を行っています」と徳永医師は話す。

 ◇新薬開発に向けた連携も

 同センターでは最先端の治験を数多く行っている。治験とは、承認前の薬剤を患者などに投与して、薬の効果をはじめ、投与量や投与方法など、薬の有効性や安全性を確認するための臨床試験のことで、徳永医師は新薬開発に向けた治験を地域の医療機関と連携しながら進めている。

 「治験の適応となりそうな患者さんがいる医療機関に最新の治験情報を提供しています。そうすることで他の医療機関の先生方も、現在どんな薬が開発されているのかを把握することができます」

 乳がんは、診断された全乳がんの5~10%が遺伝に伴い発症することが知られており、「BRCA1」および「BRCA2」という遺伝子が原因であることが同定されている。これらの遺伝子に変異があると発症するリスクが高くなり、「乳がん・卵巣がん症候群(HBOC : Hereditary Breast and Ovarian Cancer)」と呼ばれている。

 ◇遺伝カウンセリングでも連携

 日本では、2008年に日本人を対象としたBRCA1/2遺伝子検査の有用性を評価する多施設共同研究の結果が報告されてから、国内でも検査が行われるようになった。しかし、原則として検査の前後には遺伝カウンセリングの実施が義務付けられていた。

 「当院では、2010年代の早い時期から遺伝外来があったので、『オラパリブ』という治療薬が出た段階ですぐにコンパニオン診断を行うことができました」と徳永医師。しかし、当時は遺伝カウンセリングをしている施設が限られていたため、コンパニオン診断を行うことをためらうクリニックの医師は多かったという。

 コンパニオン診断とは、治療の前に使用する薬剤が最適な治療薬であるかどうか、患者から採取した血液やがん組織などを用いて行う検査のことで、個別化治療を行うに当たっては欠かせないものとなる。

 「カウンセリング体制が整っていることが求められていたので、検査ができないという病院が多数ありました。それでは患者さんのデメリットでしかないため、検査に関してはうちでやるということで患者さんを紹介してもらいました。遺伝子変異陽性の場合や患者さんが希望される場合には、当院でカウンセリングまで全て行いました」

 乳がん・卵巣がん症候群に関しては、オラパリブが登場したり、発症リスクを減らすために予防的に乳房を切除する「リスク低減手術」が保険適応になったりと、前向きな要因が増えた。このため、遺伝子変異陽性の場合でも連携を行うことで、サーベイランス(病気の発生状況などを継続的に調べること)や予防的措置などの対応ができるようになった。

 治療は、どこに住んでいても希望する治療法を受けられることが必要だ。がん診療連携拠点病院などの専門病院とクリニックとの連携が強化されることで、今後さらに選択の幅が広がることに期待したい。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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