近年、リハビリテーション分野においてさまざまなロボットが導入されている。しかし、その多くは患者の意図とは関係のない決まった動作の繰り返しや患者自身の動作の補助しかできないため、脳卒中による重度上肢麻痺リハビリテーションへの応用は困難であった。順天堂大学大学院リハビリテーション医学教室の村上悠平氏、教授の藤原俊之氏らは、重度上肢麻痺患者の意図を生体電気信号から判別し麻痺した手が思い通りに動かせる人工知能(AI)ロボットを開発。脳卒中後の上肢リハビリテーション治療における効果を単盲検ランダム化比較試験(RCT)で検証した結果をNeurorehabil Neural Repair2023; 37: 298-306)に報告した。

生体電気信号から患者の意思を解析

 脳卒中後の上肢麻痺の残存は患者の日常生活動作を妨げ、職業復帰などの社会生活にも影響してQOLを低下させる。しかしながら、脳卒中後に上肢機能が実用レベルまで回復する割合は15~20%にとどまり、新たな治療法やリハビリテーション法の開発が求められていた。

 村上氏らがメルティンMMI社と共同開発したAIロボットは、患者の脳から発した微弱な生体電気信号を前腕に貼った3対の電極で記録。AIが信号パターンを解析して脳活動を判別、「指をのばす」「指を曲げる」「リラックスさせる」という意図を読み取り、それに合わせてロボットが患者の指を動かす仕組み(図1、2)。

図1.AIロボット

48753_photo01.jpg

図2.左:制御するコンピュータと一体になったロボット、右上:ロボットハンド、右下:前腕をサポートしながら実際の生の使用に近いトレーニングが可能


(図1、2ともに順天堂大学プレスリリースより)

 同氏らは、脳卒中発症後2カ月以上手の麻痺が残存している患者20例を対象に、AIロボットのリハビリテーション治療における有効性を検討するRCTを実施した。

 対象を1回40分間のAIロボットによる能動的な指のトレーニングを週に2回計10回受ける能動群(11例)と、同じロボットによる受動的な指のトレーニングを受ける対照群(9例)にランダムに割り付けた。介入前、介入後、介入4週間後に運動機能評価(FMA)、MAL-14 AOU、MASについて評価した。

 その結果、対照群ではFMAに有意な改善は見られなかったのに対し、能動群では介入後、4週後ともに有意に改善した(順にP=0.011、P=0.021)。また、能動群ではMAL-14 AOUが介入後に有意に改善し(P=0.03)、手首のMASは介入後および4週間後に有意な改善が認められた(順にP=0.024、P=0.026)。

 以上の結果を踏まえて同氏らは「AIロボットを用いたリハビリテーションにより、脳卒中後の上肢機能が改善することが示された。新たなリハビリテーション治療法として今後の発展が期待できる」と結論している。なお、AIロボットは2022年5月18日付けで国内のクラスⅡ医療機器認証を取得している。

服部美咲