閉経後の2型糖尿病患者では、エストロゲン分泌量の減少に伴う骨密度の低下などにより骨折リスクが上昇するため、骨折リスクを考慮した糖尿病治療薬の選択が求められる。一方、近年使用が拡大している糖尿病治療薬にSGLT2阻害薬があるが、骨折リスクの高い集団における同薬のエビデンスは不十分である。こうした中、韓国・Sungkyunkwan UniversityのHwa Y. Ko氏らは、DPP-4阻害薬またはGLP-1受容体作動薬と比べSGLT2阻害薬で骨折リスクの上昇は認められなかったとする住民ベースのコホート研究の結果をJAMA Netw Open2023; 6: e2335797)に報告した。

RCTでリスク上昇示唆されるもメタ解析では関連示されず

 閉経後女性ではエストロゲンの減少に伴い骨代謝のホメオスタシスが乱れるため骨折リスクが高い。また、2型糖尿病骨折の独立した危険因子であるため、2型糖尿病の閉経後女性ではさらに骨折リスクが高まる可能性があり、同リスクを考慮した糖尿病治療薬の選択が必要となる。

 糖尿病治療薬のうちSGLT2阻害薬は心腎保護作用を有する可能性が複数のランダム化比較試験(RCT)で示されており、近年、使用が広がりつつある。しかし、SGLT2阻害薬は腎臓の近位尿細管細胞に作用するため、カルシウムやリン酸のホメオスタシスに影響を与え、骨密度を低下させる可能性が指摘されていた。実際、SGLT2阻害薬のランドマーク試験の1つであるCANVAS試験では、プラセボ群と比べSGLT2阻害薬群で骨折リスクの有意な上昇が示されている〔ハザード比(HR)1.26、95%CI 1.04~1.52〕(N Engl J Med 2017; 377: 644-657)。一方で、SGLT2阻害薬と骨折に有意な関連は認められなかったとするメタ解析の結果も報告されている。また、骨折リスクの高い集団である閉経後女性を対象にSGLT2阻害薬と骨折の関連について検討した研究はない。

DPP-4阻害薬と比べ全骨折リスクは22%低い

 そこでKo氏らは今回、韓国の国民健康保険サービス(NHIS)のデータベースを用いて、2013年1月1日~20年12月31日にSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬のいずれかが新規処方された45歳以上の2型糖尿病の女性患者のデータを抽出。骨折リスクをSGLT2阻害薬使用群(3万7,532例、平均年齢60.6歳)とDPP-4阻害薬使用群(33万2,038例、66.0歳)で比較するコホートと、SGLT2阻害薬使用群(11万3,622例、平均年齢61.4歳)とGLP-1受容体作動薬群(8,181例、平均年齢62.5歳)で比較するコホートをそれぞれ設定した。

 主要評価項目は全骨折(脊椎骨折大腿骨近位部骨折、上腕骨折、遠位橈骨骨折)。追跡期間はSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の処方開始から全骨折の発生、治療の中止または変更、死亡、研究終了(2020年12月31日)の中で最も早い日までとした。

 傾向スコアで層別化し、重み付けしたCoxモデルを用いて解析した結果、全骨折の発生リスクはDPP-4阻害薬使用群と比べSGLT2阻害薬使用群で22%低かった(DPP-4阻害薬使用群:平均追跡期間2.09年、100人・年当たりの全骨折発生率1.81件、SGLT2阻害薬使用群:同1.45年、1.41件、重み付け後のHR 0.78、95% CI 0.72~0.84)。

 一方、GLP-1受容体作動薬使用群との比較でも、SGLT2阻害薬使用群における骨折リスクの上昇は認められなかった(重み付け後のHR 0.92、95%CI 0.68~1.24)。また、副次評価項目(主要評価項目の各項目を個別に評価)についても、DPP-4阻害薬使用群またはGLP-1受容体作動薬使用群と比べたSGLT2阻害薬使用群におけるリスクの上昇は示されなかった。

変形性関節症の有無別を除いた全てのサブグループ解析でも一貫した結果に

 サブグループ解析を行ったところ、変形性関節症(OA)の診断歴がない患者と比べある患者では、DPP-4阻害薬使用群に対するSGLT2阻害薬使用群の骨折リスク低下度が大きかった(OA診断歴なし:HR 0.85、95%CI 0.77~0.93、OA診断歴あり:同0.70、0.63~0.79、相互作用のP=0.02)。また、OA診断歴のある患者では、GLP-1受容体作動薬使用群と比べSGLT2阻害薬使用群で骨折リスクが有意に上昇していたが(HR 1.34、95%CI 0.93~1.93)、OA診断歴のない患者ではGLP-1受容体作動薬使用群と比べてSGLT2阻害薬使用群で骨折リスクが有意に低下していた(同0.71、0.49~1.04、相互作用のP=0.03)。

 ただ、OA診断歴の有無別を除くと全てのサブグループ〔年齢層別(45~60歳、61~75歳、75歳超)および骨粗鬆症の診断歴、骨粗鬆症治療薬の使用歴、神経機能障害の既往歴、骨折リスク上昇に関連する薬剤(チアゾリジン系薬、PPI、ステロイド薬全身投与、SSRI)使用歴の有無別〕において主解析と一貫した結果が示された。

 以上から、Ko氏らは「2型糖尿病の閉経後女性において、SGLT2阻害薬と全骨折リスクの上昇に関連は認められなかった。この結果は特定のインクレチン関連薬を対照とした場合も一貫していた」と結論。また、「SGLT2阻害薬による骨折リスクはインクレチン関連薬と同程度、あるいはインクレチン関連薬と比べて低いことを示唆する今回の研究結果は、専門家にとって心強く、治療薬選択の一助となるものだ」と述べている。

(岬りり子)