ポリファーマシーは複数の併存疾患を持つ高齢者に多く起こる。ポリファーマシーの患者には抗コリン作用を有する薬剤1~3剤が使用されていることが多いが、抗コリン薬の処方が重なれば抗コリン作用も積算される。幾つかの研究では、抗コリン薬と心筋梗塞、脳梗塞、心血管死といった急性心血管イベントなどの有害事象との関連が報告されている。台湾・National Cheng Kung Universityの Wei-Ching Huang氏らは、抗コリン薬と心血管イベントにどのような関連があるか検討し、その結果をBMJ (2023;382:e076045に報告した。

抗ヒスタミン薬、消化管鎮痙薬、利尿薬などを処方

 Huang氏らは、人口の99.9%をカバーしているデータベースNational Health Insurance Research Databaseから、2011年1月~18年12月に急性心血管イベントのため病院を受診した65歳以上の高齢者(平均年齢78.4歳)24万8,579人を特定し、検討を行った。

 主な併存疾患は高血圧 (62.2%)、糖尿病(32.3%)、脂質異常症(24.0%)で、主に処方されていた抗コリン作用を有する薬剤は、抗ヒスタミン薬(68.9%)、消化管鎮痙薬(40.9%)、利尿薬(33.8%)であった。心血管イベントは、心筋梗塞、脳梗塞不整脈、伝導障害、失神および心血管死と定義した。

 ケースクロスオーバー解析とコントロールクロスオーバー解析の2つの自己対照研究法を取り入れたcase-case-time-control研究を実施した。ケースクロスオーバー解析で同一個人の比較により時不変交絡因子を除去し、コントロールクロスオーバー解析で薬剤使用の時間的傾向を調整し、将来の症例を含めることによりprotopathic bias(因果の逆転)に対処した。

 年齢と性により現在の症例と将来の症例をマッチングし、現在の症例のイベント発生日から60~180日以内がイベント発生日となっている患者を将来の症例に選択した。index dateを現在の症例のイベント発生日とし、同じindex dateを将来の症例に適用。index dateに先行する180日間をハザード期間(-1~-30日)、washout期間(-31~-60日)、基準期間(-61~-180日の間の4つの異なる30日からランダムに選ばれた期間)の30日ずつに分けた。

 抗コリン作用の強度は、抗コリン作用負荷の計測に広く用いられるAnticholinergic Cognitive Burden(ACB) Scaleを用いて評価。0点は抗コリン作用なし、1点までは軽度抗コリン作用、2、3点は強度抗コリン作用と定義し、各期間の合計抗コリン作用負荷は相当する点数を掛け合わせた薬剤の合計として算出した。スコアは3段階のレベル(0点、1~2点、 3 点以上)に分類した。

抗コリン作用負荷が強いほど高リスク

 1~2点と0点の比較では、ケースクロスオーバー解析でのオッズ比(OR)は1.86(95%CI 1.83~1.90)、コントロールクロスオーバー解析ではOR 1.35(95%CI 1.33~1.38)であり、これはcase-case-time-controlのORより低かった(OR 1.38、95%CI 1.34~1.42)。同様の結果が3点以上 vs. 0点(OR 2.03、95%CI 1.98~2.09)、3 点以上 vs. 1~2点(OR 1.48、95%CI 1.44~1.52)でも認められた。case-case-time-controlで最大のORは心血管死での抗コリン作用負荷3点以上 vs. 0点で観察された(OR 2.43、95%CI 2.25~2.63)。

 さらに抗コリン作用負荷カテゴリーの定義を3点以上から5点、10点以上に変更して感度分析を実施したところ、ORは上昇し、ハザード期間と基準期間で抗コリン作用負荷に大きな差が認められた(5点以上 vs. 0点:OR 2.46、95%CI 2.39~2.53、5点以上 vs. 10点以上:OR 2.90、95%CI 2.75~3.06)。一方、3点以上 vs. 0ポイントではORは2.03(95%CI 1.98~2.09)であった。その他の感度分析も同様に主解析の結果と一致していた。

 以上の結果から、抗コリン作用負荷が強いほど急性心血管イベントのリスクは高くなることが示された。Huang氏らは、「医療提供者は抗コリン作用を有する薬剤に注意し、不必要な薬剤使用を減らすよう配慮すべきである」と述べている。

山田充康