高齢運転者には運転免許更新時に高齢者講習と認知機能検査が義務付けられるとともに、免許返納が奨励されている。運転をやめれば事故を起こすリスクはなくなるが、移動手段が限られることで生活に支障を来し、健康を損なう恐れがある。そのため、高齢運転者対策は事故を起こすリスクと健康を損なうリスク双方に配慮しなければならない。筑波大学医学医療系教授の市川政雄氏らは全国で発生した交通事故のデータを基に、高齢運転者が事故を起こすリスクについて検討。事故リスクは中年期以降、高齢になるにつれて高くなるが、若年運転者と比べると低いことが分かったとJ Epidemiol2023年10月7日オンライン版)に報告した。

自動車同士の事故で傾向が顕著

 市川氏らは2016~20年に日本で発生した自動車による交通事故のデータを、警察庁の交通事故データを管理する交通事故総合分析センターから入手し、免許保有者当たりの事故件数(事故リスク)、事故件数当たりの死傷者数(死傷リスク)、死亡事故における各当事者(運転者、同乗者、衝突した車の乗員、バイク、自転車、歩行者)が全死者数に占める割合を、事故を起こした運転者の性および年齢層別に比較した。

 5年間での事故件数は188万8,652件で、内訳は自動車対自動車が113万8,063件(60%)、自動車対バイクが20万8,783件(11%)、自動車対自転車が31万2,252件(17%)、自動車対歩行者が19万5,048件(10%)、単独事故が3万4,506件(2%)だった。

 事故リスクを検討したところ、中年期以降は運転者の年齢が上がるにつれてリスクが上昇していったが、若年運転者と比べると高齢運転者のリスクは低かった。特に自動車同士の事故においてその傾向は顕著だった(図1)。

図1.免許保有者10万人当たりの衝突相手別事故件数(運転者の年齢層別)

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高齢者では運転者自身の死亡数が多い

 一方、衝突相手が自転車や歩行者の場合の事故リスクは、他の年齢層と比べ高齢運転者において相対的に高く、相手の死傷リスクおよび運転者自身の死傷リスクも高い傾向を示した。ただし、衝突相手全体の死傷リスクは事故を起こした運転者の年齢層間で大きな違いは認められなかった。

 死亡事故においては、事故を起こした運転者が高齢であるほど単独事故で死亡することが多く、歩行者や自転車などの交通弱者が死亡するケースは少ないことが分かった(図2)。

図2.死亡事故の各当事者が死者数に占める割合(運転者の年齢層別)

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(図1、2とも筑波大学プレスリリースより)

 これらの結果から市川氏らは「高齢運転者は自身が起こした事故で死亡するケースが多いものの、事故リスクは若年運転者と比べて低く、衝突相手の死傷リスクは他の年齢層と同等であることが示唆された。運転をやめることで健康を損なうリスクが生じうることを考えれば、過度に高齢運転者の免許返納を求めることは控えるべきかもしれない。運転継続のための支援と運転をやめた後のモビリティ支援をセットにした対策が必要」と提案している。

(編集部)