治療・予防

寿命を縮める便秘
~専門家警告「万病のもと」~

 便秘というと、若い女性の悩みと思う人もいるかもしれない。しかし、高齢者の方が問題は深刻で、65歳以上では30人に1人が苦しんでいるという。横浜市立大学大学院で消化器病などを専門とする中島淳・主任教授は「便秘は万病のもと。死に至ることもある病気だということを知ってほしい」と警告する。

便秘に悩む高齢者は多い

 ◇息むと血圧上昇

 スムーズな排便ができないことはつらいが、我慢する人も多い。それは危険な病気だと思わないからだ。「うっとうしいだけ」「死ぬ病気ではないのだろう」と、軽視する傾向がある。しかし、排便しようと息むと血圧が上がる。特に高齢者は要注意だ。

 米国の研究によると、すべての哺乳類は約12秒で排便するという。排便時間が長ければ、敵に襲われて餌食になる恐れがあるからだ。人間の場合は別の問題がある。高齢者で便秘症の人が息むと血圧が上昇しやすい。排便直前と排便時の血圧は若年者だと110程度だが、高齢者は120~150になる。20歳以上の米国人約3900人を対象に、15年間にわたり追跡調査をしたデータがある。それによると、便秘症のある人はない人に比べ、生存率(生命予後)が低下していた。中島教授は「循環器の疾患を引き起こし、心不全や脳卒中などで死に至るケースがあることを知ってほしい」と言う。

 古今東西の有名人でも便秘が原因で生命の危機に陥った例はある。ロックの帝王と呼ばれたエルビス・プレスリーらである。中島教授は「排便まで30秒以上かかれば、要注意。専門医を受診してほしい」と勧める。

健康な便はバナナ状

 ◇うんちの形に注意

 排便は、当然ながら日常的な行為だ。まずは、うんち(便)の形を見てみよう。記者の後輩が欧米の支局に赴任後しばらくして、こんなメールが届いた。「こちらでも納豆が簡単に手に入るようになり、毎朝のように食べています。バナナのようなうんちが出て快食・快便です」。このメールを読んだ時には、「何だよ。うんちの話かよ」とムッとしたが、中島教授の話を聞いて思い直した。

 「ブリストル便形状スケール」という国際的な基準があり、これをチェックすることが便秘の改善の第一歩になる。

 硬い便は「1」から「2」まで。健康な便は「3」から「5」だ。「6」と「7」は軟便に分類される。ただ、欧米人と日本人では多少、異なる。中島教授は「スケールの『4』に当たるバナナ状の便が日本人はベストだ」と指摘する。

 ◇「お通じホルモン」

 最近、胆汁酸というホルモンと排便との関係が深いことが分かってきた。胆汁の主成分である胆汁酸は脂質の消化やコレステロールの調整、大腸の消化運動を促進する。欧米の調査によると、便秘症の人は健康な人に比べて便中の胆汁酸濃度が低い。これは日本人でも変わらない。中島教授は「胆汁酸により大腸の運動が引き起こされ、便意を感じやすくなる。分かりやすく言えば、胆汁酸は『お通じホルモン』だ」と説明する。患者に負担をかけることなく、直腸内の胆汁酸濃度を高める治療に期待がかかる。

 便秘で怖いのは慢性化することだ。慢性便秘症について、専門医による研究会がガイドラインを作成している。診断基準は「排便の4分の1超の頻度で、強く息む必要がある」など6項目を設定し、「6カ月以上前から症状があり、最近3カ月間はこの基準を満たしていること」としている。

理想的な排便の姿勢は

 ◇トイレでは35度に前かがみ

 便秘の改善にはどうすればよいのだろうか。運動、野菜を取る食事などを心掛けたい。もう一つ大事なポイントがある。スムーズな排便には、トイレでの姿勢が関係する。普段は「くの字」に曲がっている直腸が食事後の運動で直角に近くなるほど排便しやすい。直腸と肛門の理想的な角度は35度で、ロダンの有名な彫刻である「考える人」のポーズをイメージしてほしい。

 そういう意味で、今は廃れた和式トイレの方が洋式トイレよりも良いだろう。ただ、和式トイレに戻すことにも無理がある。中島教授は「便座の下に足台を置くのが効果的だ。米国などでは普及しつつある」と勧める。

 摘便(てきべん)という言葉を知っているだろうか。便が詰まっている患者から手で便をかき出すことだ。看護師にとって精神的な負担が重い上に、患者自身が行うことにはリスクが伴う。専門医を受診する目安として中島教授は「年齢差があることをひとまず置いて、1日に二度から2日に一度の排便でも心配はないだろう。ただ、3日に一度くらいの排便が続くような場合は受診した方がよい。背後に、大腸がんや直腸がんなどが隠れている可能性がある」と説明する。(了)

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