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子どもだけでなく、みんなにかかりやすい
~変異ウイルスへの不安に正しい情報提供~ 国立成育医療研究センターが啓発リーフ作成

 感染力の強い変異ウイルスの登場で、新型コロナウイルスの患者が増加する中、これまで患者が少ないとされた10歳未満の小児でも、患者数は増え、一部でクラスター(集団感染)が報告されている。クラスターが発生した保育園などが一時閉園され、保護者や子どもたちの間では、新たな不安が広がり始めている。

 日本小児科学会の「予防接種・感染対策委員会」は今年3月、「多くの子どもが感染しています。ただ、変異株による感染は、特に子どもに多いということはない」との見解を発表した。この見解では、「変異株の登場前後で成人と子どもの感染者の割合は大きく変わらない」ことや「変異株が子どもに感染した場合も、異なる経緯を示すことはないと報告されている」としている。しかし、保護者や子どもたちに理解され、十分に浸透しているとはいえないのが実情だ。

子どもにも分かりやすく作成されたリーフレット(国立成育医療研究センター提供)

子どもにも分かりやすく作成されたリーフレット(国立成育医療研究センター提供)

 ◇子どもでも分かる内容

 国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)は保護者だけでなく、小学校低学年にも分かりやすくまとめたリーフレットを作成、ホームページやLINEで公開した。3ページで「コロナの変異ウイルスは前と比べて、感染のパワーは最大で1.7倍!『子どもだけ』にかかりやすいのではなく、『みんなに』かかりやすいんだよ」とイラストと仮名を多用して、分かりやすい表現で絞り込んだメッセージを掲載した。その上で、症状は変異株でも変わらないこと、予防法は手洗いやマスク装用の徹底など同じであることをシンプルに伝えた。

 作成した同センター「コロナ×こども本部」の半谷まゆみ研究員と澤田なおみ研究員は、作成の経緯について「小児科学会の見解が出てからも、保護者や子どもたち自身から変異株についての不安や情報不足を訴える声が寄せられ続けていたため」と説明。小児科のクリニックや学校・保育園などにポスターの形で張り出してもらって、子どもたちや保護者への説明にも使えるように伝える情報を絞り込んだという。

 ◇負の感情に見守りのメッセージ

 実際に文章をまとめた澤田研究員は、「感染への恐怖や(昨年の一斉休校のように)学校などに通えなくなる不安、感染した際に受けるかもしれない差別への恐れなど、子どもが抱く負の感情は大きい。正しい情報と、医療関係者や保護者など周囲の大人が見守っているよ、というメッセージを伝えることが大切だと思った」と作成の狙いを説明している。

 このため、遺伝子変異の詳しい仕組みや変異株ごとの性格の違いなどは省いている。「子どもがかかりやすいのではなく、大人と同様にかかりやすくなった」ということに力点を置いて作成した、と言う。

いっしょにがんばろうね、と子どもたちに呼び掛けた(国立成育医療研究センター提供)

いっしょにがんばろうね、と子どもたちに呼び掛けた(国立成育医療研究センター提供)

 ◇成人中心の感染症、変異株でも変わらず

 新型コロナの小児への感染について、パンフレットの監修に携わった同センター感染症科診療部の宮入烈(いさお)部長は、自身の診療体験も合わせ、「昨年中に確認されていた従来型のウイルスは成人との比較で、小児への感染力は約半分程度であることが確認されていましたので、『子どもにかかりにくい』と判断された。感染力が強い変異株が中心となったと考えられる今年4月以降の流行では、確かに小児の患者も増えてはいる。しかし、英国などの報告でも実際の臨床現場の感覚でも、絶対数は成人に比べて相対的に少数と言える。成人中心の感染症、という点では変化はない」と説明している。

 また、若年者を中心に早期に重症化する患者が目立つといわれる点についても、「小児は異なる」と宮入部長は話す。「感染しても無症状の子が多いし、発症しても発熱や鼻水、せきなどを経て自然と回復するのが大半。重症肺炎になることは大変、まれです」と現状では重症化リスクは従来型と同様に低いと指摘している。

 これらの点を前提に、「小児から小児への感染は以前と比べると増えてはいますが、多くは家庭内で成人家族からの感染がほとんど。インフルエンザのように休校や学級閉鎖のような子どもに絞っての感染拡大防止策を急ぐ必要はないのではないか」と理解を求めている。(喜多壮太郎)



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