治療・予防

コロナ、変異株の脅威
~若年層も危険~

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。東京などに3回目の緊急事態宣言が発出されたが、十分な効果を発揮できるとは限らない。「直近の検査結果では、受診した患者のすべてがいわゆる英国型の変異株だった。変異株では、20~30代でも症状が急速に増悪して重症化してしまう比率が高くなった」。多くの新型コロナウイルスの患者を受け入れている昭和大学病院(東京都)院長の相良博典教授(呼吸器・アレルギー内科)は、4月以降の流行状況の変化をこう説明する。

病院内でウイルス変異の有無を調べるPCR検査=昭和大学病院提供

病院内でウイルス変異の有無を調べるPCR検査=昭和大学病院提供

 ◇独自の遺伝子PCR検査

 同病院は感染症指定医療機関ではないが、重症肺炎などを発症した新型コロナウイルスの患者を受け入れ、一定の治療効果を上げていた。しかし、3月に都の依頼で受け入れた患者の中に変異株に感染していた事例が判明。その後、全受け入れ患者に対して新型コロナウイルスの遺伝子変異の有無を調べる遺伝子PCR検査を独自に開始した。

 特定の遺伝子を調べる検査で、病院内の機材を使って常時スタッフ2人が休日返上で進めている。スタッフが不足するときは、基礎研究などに携わっていた教職員にも協力を得て、検査数の増加に対応した。

 大学病院ならではの対応で、多くの医療機関のように外部検査機関に委託するよりも短時間で検査結果が得られる。検査機材や人件費の負担増は避けられなかったが、それでも実際の医療現場では確定診断ができずに判断に困り、感染者を隔離するなどの事態は避けられたという。

 ◇見えてきた英国株の特徴

 この検査は、変異株の推移をリアルタイムに把握する効果もある。「当初は2020年以来の在来株、東日本に多い『E484K』と呼ばれる変異株、『英国型』と呼ばれる変異株N501Yの3種がほぼ等分だったが、急激に二つの変異株の比率が増加した。その次に4月に入ってからは英国株が寡占化し、直近のまとめではほとんどがその英国株になった」と相良教授は言う。

 ウイルスの変異株ごとによる影響、特に英国株の臨床的な特徴も見えてきたと言う。実際の治療では、ウイルスの株に応じて診療の対応を変えなければならない。ただ全数検査ができない現状で対応しきれない医療機関も少なくない。それでも相良教授は「特定の変異の有無はPCR検査で調べることができる。変異の有無の確認までが診断、という体制を急いで整えなければならない」と指摘する。

 ◇20代男性が緊急入院

 中でもゴールデンウイーク前の段階で問題になったのが英国株だ。この特徴は、感染力が高いことと、重症化しやすいことだとされている。この点について相良教授は「少なくともこれまで感染しても発症する比率の低かった30代以下の若年者で症状が出てきており、患者数に比例して重症者も増えている」と話す。

若い患者でも急速に肺炎が悪化することが、CT画像から分かる=昭和大学病院提供

若い患者でも急速に肺炎が悪化することが、CT画像から分かる=昭和大学病院提供

 典型的な例は、ある20代の男性だ。体温37度台の発熱で受診して診断が確定。当初は自宅療養だったが、数日後に強い息苦しさを訴えて再受診。CT検査をすると新型コロナウイルス特有の、左右両肺に広く炎症を示す影が見つかり、コロナ肺炎として入院となった。

 相良教授は「肺炎の進行の速さや、症状が相当進行しないと患者が症状を感じないなどの兆候は、新型コロナウイルスに共通している。しかし、若年者でもこれだけ明確に出るのはそれだけ感染力が高く、重症化しやすいことを示している」と述べるとともに、「現在は相対的に重症化しにくい20~30代に患者が集中しているが、これが家庭内感染などでより抵抗力の低い高齢者に拡散した場合は、危機的な状況に陥る」と危惧する。

 ◇自宅でなく、施設で

 英国株だと分かった場合は、若年者ら、これまで重症化リスクの低い患者に対しても丁寧な病状把握と、病状の急変に備えての警戒が必要になる。具体的には「まず英国株なら無症状でも自宅ではなく施設療養にすることだ。その上で自覚症状に変化がなくても定期的に病状を医師が確認し、重症化する前に兆候を早期に見いだして対応していくしかない」と強調する。(了)

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