日本では約1,400万人が難聴を抱えると推定されるが、補聴器などによる治療を受けている人は14.1%にとどまる。これまでに複数の研究で難聴と認知症の関連が報告されているが、難聴治療による認知機能低下の抑制効果は明らかでない。10月13日、有志の国会議員による難聴対策推進議員連盟がメディアセミナーを開催し、米・Johns Hopkins UniversityのFrank Lin氏が講演。最新の知見として、同氏が主導したACHIEVE試験の内容を報告した。試験の結果は、Lancet(2023; 402: 786-797)に発表されている。

認知症リスク高い集団で有効

 高齢化の進展に伴い認知症の有病率は増加しており、予防と治療が喫緊の課題となっている。認知症の危険因子を検討する複数の研究により、余暇活動や運動、社会的交流の不足、糖尿病高血圧などさまざまな因子が同定されている。また最近、他因子介入プログラムにより、高リスク例で認知機能の低下が抑制されるとの結果も報告された(関連記事「認知症は多因子介入で予防できる?」)。

 一方、難聴は単独で認知機能低下と最も強く関連するとの報告(Lancet 2020; 396: 413-446、関連記事「難聴は認知症リスクにも、耳の抗加齢」)がある。Lin氏はこの結果について「難聴は社会的交流の阻害など複数の認知症危険因子と関連しているため、難聴の治療は多因子への介入と同様の効果をもたらす可能性がある」と説明する(図1)。

図1.難聴と認知症の関係

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Aging Ment Health 2014; 18: 671-673

 そこで同氏らは、認知機能低下がない難聴の高齢者への聴覚治療による認知機能低下抑制効果を検証する多施設ランダム化比較試験ACHIEVEを実施。心血管リスクを有し認知症リスクが高い人(ARICコホート、238例)と認知症リスクが低いボランティア(de novoコホート、739例)を介入群(聴力カウンセリングと補聴器を提供)と健康教育プログラムを受ける群(対照群)に1:1でランダムに割り付け、6カ月ごとに追跡調査を行った。平均年齢は76.8±4.0歳、女性は523例、男性は454例で、白人が88%を占めた(858例)。3年間追跡した時点で介入群は1日平均2.7±5.2時間補聴器を使用していた。

 3年後の認知機能の変化を見たところ、全体では介入群と対照群に有意差は認められなかった(群間差0.002、95%CI -0.077~0.081、P=0.96)。一方、ARICコホートでは対照群に対し介入群で認知機能低下が48%抑制された(同0.191、0.022~0.360、P=0.027)。de novoコホートでは両群に有意差は認められなかった(同-0.061、-0.151~0.028、P=0.18、図2

図2.3年後における認知機能の変化

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(Frank Lin氏提供)

 以上の結果について、Lin氏は「認知機能低下のリスクが高く難聴を有する高齢者集団では、聴覚介入により3年間の認知機能低下が抑制されることが示唆された」と結論。「今後は、長期的な聴覚介入による低リスク集団や認知症発症に対する効果を評価する予定だ」と展望している。

服部美咲