「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命

「痛みを我慢」がまん延
医療用麻薬の恩恵-緩和ケア〔3〕

 「先生、がんは痛いんですよね」-。こんな質問をされることがよくあります。皆さんはどう考えますか。正解は「人それぞれ」です。痛い場所にがんができれば進行具合がそれほどではなくても痛いケースがあります。逆にあまり痛くない場所にがんができれば、最後まで痛くないということもあるのです。

医療用麻薬にさまざまな誤解

医療用麻薬にさまざまな誤解

 ◇長い歴史

 さて、がんで痛みが出た場合はどうしてもらいたいでしょうか。もちろん痛み止めを使ってほしいですね。ただ、薬局でも売られているような痛み止め薬は、がんの痛みに対して効果が不十分なことがあります。

 では、どうするか。「オピオイド」と呼ばれる薬の出番です。私のような緩和ケア医はオピオイドの専門家でもあるのです。オピオイドとは、身体の中のオピオイド受容体という場所に作用して、痛みを感じにくくする効果を発揮する薬剤のことを言います。特に脊髄や脳に作用することで鎮痛作用を示し、痛み止めとして使われています。

 医療用麻薬の多くは、このオピオイドです。オピオイドにはさまざまな薬剤があり、多くが麻薬指定されていますが、麻薬指定になっていない「トラマドール」や「ブプレノルフィン」などの薬もあります。正確には「オピオイド」と「医療用麻薬」は完全に一致しないのですが、今回は医療用麻薬で統一します。

 医療用麻薬は、がんの痛み治療で長い歴史がありますが、誤解が多い薬でもあります。その一つは「意識を低下させて痛みを和らげる薬」という誤解で、非常に多いのです。

米パーデュー・ファーマのオピオイド系鎮痛剤(米麻薬取締局提供)2017年08月10日【AFP=時事】

米パーデュー・ファーマのオピオイド系鎮痛剤(米麻薬取締局提供)2017年08月10日【AFP=時事】

 ◇さまざまな誤解

 実際に医療用麻薬を投与されると、開始時および増量時に眠気が出ます。しかし、この眠気は作用が減退する「耐性」が形成されて軽減していき、消失します。一度消失すると、過量でなければ眠気はそれほど強くなりません。医療用麻薬を使用しながら、以前と変わらず仕事をされている人も多くいます。

 次に「がんが進行して最終末期になった患者を眠らせるために用いる」というような誤解があります。しかし、医療用麻薬は鎮静薬と比べれば意識を低下させる効果は弱く、そのような使用法は妥当ではありません。

 より大きな誤解として「オピオイドが命を縮める」というものがあります。しかし、終末期がん患者にモルヒネなどの医療用麻薬を増やしても命は縮まないとされています(注1)。

 痛みに苛まれていると、生命力がそがれることもあるかもしれません。痛みを和らげればその分患者は楽になるはずです。少なくとも、がんの場合、適正に医療用麻薬を用いることで余命を縮めることはないと言って差し支えないでしょう。


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