Dr.純子のメディカルサロン

がんと新型コロナ、どう向き合うべきか
~科学的根拠の乏しい情報に注意を~ 勝俣範之・日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授に聞く

 最近、がんの治療を受けている人から、「治療のために病院に行くのが怖い」「自分は感染リスクが高いのでは」という声を聞きます。

 女優の岡江久美子さんが新型コロナウイルス感染症で亡くなった時、がんの放射線治療を受けていたという報道があり、放射線治療を受けているがん患者さんから「免疫力が低下して新型コロナウイルスに感染しやすくなるのでは」と、不安になったという話も聞きました。

勝俣教授

勝俣教授

 そこで、腫瘍内科医の第一人者であり、著書「『抗がん剤は効かない』の罪」で知られる日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科の勝俣範之教授にお話を伺いました。

 ◆がん患者は感染しやすい?

 海原 がん患者は新型コロナウイルスにかかりやすいのでは、と心配している人が多いようです。やはり、かかりやすかったり、重症化しやすかったりするのでしょうか。

 勝俣 がん患者さんが新型コロナにかかりやすいのかというと、まだ、あまり多くの報告があるわけではありませんが、一般の人に比べれば、やや多く、かかりやすいということが報告されています。

 心配なのは、新型コロナにかかった場合、重症化しやすいのかどうか、というところだと思います。

 米ニューヨーク市のデータによりますと、新型コロナにかかった患者さんの死亡リスク要因のうち、最も高いのは「75歳以上の高齢者」になります。

 死亡リスクは7.7倍と報告されました。心不全の合併があると1.54倍、がんの合併は1.29倍でした。

 このデータから、がんの患者さんは「やや重症化」や「死亡」のリスクが高くなるようですが、やはり、最も影響があるのは、高齢者であるということだと分かります。

 この報告は、多変量解析という方法を使っており、データの信頼性が高いといえます。つまり、さまざまな要因は重なり合っているので、どのような要因が最も影響するか、重なり合う要因(医学用語で「交絡」といいます)のリスクを調整して、解析しているのです。

 ◆がんの種類によってリスクは違う?

 海原 がんの種類によっては、新型コロナのリスクが高いというがんがあるのでしょうか。また、リスクに男女差はありますか。

 勝俣 がんの中でも、「どのようながんがリスクが高いか」などの報告が、幾つかなされています。

 これまで、血液がんや肺がんの患者さん、喫煙者、化学療法(抗がん剤治療)中の患者さんなどがリスクが高いとの報告がありました。

 しかし、そうした報告は、症例数が少なかったり、多変量解析のように、さまざまな要因を調整していなかったりしたものがほとんどでした。

 最近、米国、カナダ、スペインで、新型コロナに感染したがん患者さん928人のデータが報告されました。この報告は、さまざまな要因を調整して解析した多変量解析の結果であり、信頼度が高いと言えます。

 この報告によりますと、やはり、高齢者の死亡リスクが高く、男性にやや死亡リスクが高い傾向がありました。

 その他、がんに罹患(りかん)していて、がんが進行している状態も、死亡リスクが関係していました。この報告では、がんの種類は、あまり関係がないようでした。

 海原 受けている治療と関係はありますか。

 勝俣 
今、お話した米国、カナダ、スペインのデータでは、抗がん剤治療の有無は、あまり大きな影響がありませんでした。

 ◆メディアは刺激的な情報に飛びつく

 海原 血液型が新型コロナのリスクに関係があるような報道もありました。真偽のほどは。

 勝俣 新型コロナは、まだまだ未知のウイルスであり、死亡率も高く、人々を不安や恐怖にさらしています。

 不安や恐怖は、人から冷静な判断を失わせると言います。私は、がんの専門医ですが、がんの状況と新型コロナの状況は似たところがあり、怖い病気ですので、人から冷静な判断を奪い、デマが信じられやすい状況にあるかと思います。

 新型コロナの情報でも、デマなどがたくさん飛び交っていますので、注意が必要です。

 血液型と新型コロナの関係については、中国の武漢から発表されたデータというのがあります。これは、症例が2173例と多いのですが、報告を読みますと、さっきも述べましたように、他の要因を考慮して解析した多変量解析の結果でもなく、決して信頼性が高い情報とは言えません。

 新型コロナに関しては、これまで最も信頼できる情報源とされてきた医学雑誌「Lancet(ランセット)」や「New England Journal of Medicine(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)」でも、新型コロナの論文が取り消されるなどの事態が起こっており、情報の信頼性に対して、より慎重になるべきだろうと思われます。

 メディアも、このような衝撃的で刺激的な情報は、ニュースにしやすいし、皆の興味を引きつけるので、すぐに飛びついてしまう傾向があります。医療情報というのは、時として、人々の命にも関わってくる可能性があるため、慎重に報道してほしいものです。


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