ニーマン・ピック病C型は、指定難病であるライソゾーム病の一種で、その治療薬としてライソゾームおよび代謝機能障害を改善する可能性のあるN-アセチル-L-ロイシン(NALL)が期待されている。スイス・University Hospital BernのTatiana Bremova‑Ertl氏らは、同疾患の治療におけるNALLの安全性と有効性を検討する第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化クロスオーバー試験を実施。NALLが神経機能を有意に改善したとN Engl J Med(2024; 390: 421-431)に報告した。

全身の組織で代謝障害とエネルギー供給を改善

 ニーマン・ピック病C型は、進行性、衰弱性、早期致死性の希少疾患で、全身症状、精神症状、神経症状を呈し、神経機能の多くの側面に障害をもたらす。現行の治療は、グルコシルセラミド合成酵素阻害薬であるミグルスタットにより神経症状の進行を遅らせることに限られている。一方、NALLは経口投与されて全身の組織に到達し、代謝障害とアデノシン三リン酸(ATP)のエネルギー供給能を改善する。こうした改善が、ミトコンドリアおよびライソゾームの機能とエネルギー代謝の正常化につながり、脂質の異常蓄積を減少させる。

 今回の試験の対象は、遺伝学的に診断された5~67歳のニーマン・ピック病C型患者60例。NALLを12週間投与し、その後プラセボを12週間投与する群と、逆の投与スケジュールで治療する群に1:1の割合でランダムに割り付けた。

 薬剤は1日2〜3回経口投与するものとし、用量は4~12歳では体重に基づき2〜4g/日の範囲で決定し、13歳以上では4g/日とした。

 主要評価項目は、運動失調評価尺度(SARA;範囲は0~40点で、数値が低いほど神経学的状態が良好)の合計スコアとした。副次評価項目は、臨床全般印象-改善度(CGI-I)、脊髄小脳失調症機能指標(SCAFI)、修正障害評価尺度(mDRS)のスコアなどとした。各12週間の2つの投与期間に得られた各群のクロスオーバーデータによりNALLとプラセボを比較した。

NALL投与後に運動失調評価尺度が有意に改善

 主解析に用いたSARA合計スコアのベースラインの平均値は、NALL初回投与前(60例)が15.88点、プラセボ初回投与前(59例、1例はプラセボ投与を1回も受けず)が15.68点だった。

 SARA合計スコアのベースラインからの平均変化量は、12週間のNALL投与後で-1.97±2.43点、12週間のプラセボ投与後で-0.60±2.39点だった(最小二乗平均差 -1.28点、95%CI -1.91~-0.65、P<0.001)。副次評価項目の結果は、全般的に主解析の結果を支持していた。多重比較の補正は行わなかった。

 有害事象の発現率にNALL群とプラセボ群で有意な差はなく、いずれにおいても重篤な治療関連有害事象は発現しなかった。

 これらの結果について、Bremova‑Ertl氏らは「ニーマン・ピック病C型患者において、NALL12週間投与後の神経学的状態は、プラセボ投与後と比べて良好であった」と結論。その上で「同疾患患者におけるNALLの長期効果を判断するには、さらに長期かつ大規模な検討を要する」と付言している。

小路浩史