毎年2月最終日に制定されている「世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day;RDD)」を前に、大阪大学大学院中性脂肪学共同研究講座特任教授の平野賢一氏は昨日(2月27日)、自身らが見いだした難治性疾患である中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)について、「循環器病の仮面をかぶった代謝病で、代謝と循環器の両面への理解を要する」との声明を発表した。また診断例および死亡例の集積を踏まえ、治療法の開発状況に関わらず難病指定の先送りは回避すべきとして国や関係者に強く要請していく構えを見せた。(関連記事「TGCVの予後は拡張型心筋症と同等」「中性脂肪蓄積心筋血管症、難病指定に決意

診断体制は整備されるも、死亡例が今なお報告

 TGCVは、平野氏らが2008年に国内の心臓移植待機症例から見いだした難治性疾患である。罹患臓器・細胞の主なエネルギー源である長鎖脂肪酸 (LCFA)の細胞内に代謝異常を来すことで、トリグリセライドの蓄積による脂肪毒性とLCFAの供給途絶によるエネルギー不全が生じると考えられている。

 TGCVをめぐっては、厚生労働省、日本医療研究開発機構(AMED)などの難治性疾患関連事業として、2009年から疾患概念の確立や診断基準の策定、特異的治療法の開発が行われている。

 TGCVの診断体制は、2019年時点の17都道府県20施設に対し、今年2月には40都道府県100施設まで拡大。累積診断数は256例から814例に増加した一方で、死亡例も77例報告されている。

 同氏らはこれまで、急性冠症候群例に占めるTGCVの頻度は約5%で、脂肪酸代謝シンチグラフィ123 I-β-methyl-P-iodophenyl-pentadecanoic acid(BMIPP)の洗い出し率と心筋生検標本における脂肪蓄積量が有意に相関すること、TGCVの病態の根幹は細胞内TG分解障害で、その経路は多様であることなどを明らかにしている(ESC Heart Fail 2024年2月18日オンライン版Eur Heart J Acute Cardiovasc Care 2024年1月11日オンライン版Ann Nucl Cardiol 2023年12月26日オンライン版)。

難病指定の要件である診断基準の学会承認が議論

 平野氏は「TGCVは心臓病の仮面をかぶった代謝病であり、"代謝"と"循環器"の両面への理解が必要である」と指摘している。

 TGCVの難病指定の要件となる「中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)診断基準 2020年度版」(厚生労働省難治性疾患政策研究事業TGCV研究班)の関連学会からの承認に関しては、現在広く議論されている。またTGCVに対する治療法として、中鎖脂肪酸をカプセル化した医薬品(CNT-01)を用いた臨床試験が進行中だが、薬剤登場の可能性を見据え難病指定を見送ることも議論されているという。

 同氏は、薬剤承認・市販後調査までのプロセスは承認申請から少なくとも5~6年を要する点に言及。TGCV患者の苦しい療養実態や予後不良な厳しい状況を踏まえ、「TGCVの指定難病化のさらなる先送りは避けなければならないことを、国や関係者に強く要請する」と訴えている。

(田上玲子)