研究・論文

日本で発見された“心臓の肥満”
治療法の開発進む中性脂肪蓄積心筋血管症

 心筋細胞や冠動脈に中性脂肪が蓄積し、重症の心不全や虚血性心疾患を起こす「中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)」。2008年に日本で発見され、国の難病研究事業として診断法や治療法の開発が進んでいる。TGCVの発見者で厚生労働省の研究班代表の大阪大学大学院医学系研究科(大阪府吹田市)内科学講座循環器内科学の平野賢一医学部講師聞いた。

 ▽分解酵素の欠損

 平野医師らがTGCVの発見に至ったのは、心臓移植を待つ患者から提供された細胞の研究に始まる。正常な心臓では、長鎖脂肪酸が細胞内で代謝され、エネルギー源として利用される。ところが、この患者の場合、長鎖脂肪酸が代謝されずに中性脂肪となって心筋細胞や冠動脈を形成する血管平滑筋細胞にたまっていた。

早期発見で治療につなげたい

 「心臓の細胞の中で中性脂肪を分解するATGLという必須酵素が欠損していることが分かりました。心臓が脂肪細胞のようになり脂肪酸を中性脂肪として蓄えてしまっている、いわば心臓が肥満に陥っている状態なのです」と平野医師。その結果、動脈硬化や心筋障害を起こし、重症の心不全や不整脈などを来すことが分かった。

 ただ、本来なら脂肪細胞に蓄積されるはずの脂肪が他の細胞に蓄積されてしまう「異所性」蓄積という特徴から、体重や体格指数(BMI)、血中の中性脂肪値からは判断できない。平野医師らは、TGCV患者は国内に数万人いるのではないかと推定している。

 ▽診断法や治療法を模索

 TGCVが疑われる場合は、投与した長鎖脂肪酸の心臓での消費量を調べるBMIPPシンチ検査や、コンピューター断層撮影(CT)検査を行う。また、血液を薄く延ばした標本を使い、中性脂肪の代謝異常との相関が見られる白血球の異常を確認する。

 治療は、従来の心不全や不整脈などに対する標準治療を行うが、効果はあまり期待できない。これと並行して行う治療法の一つとして、まだ研究段階ではあるが、中性脂肪の蓄積改善を目標とした、中鎖脂肪酸を多く含む食事による栄養療法がある。中鎖脂肪酸の中でも特にカプリン酸が細胞内に蓄えられた中性脂肪を分解することが分かり、カプリン酸を主成分とした治療薬を平野医学部講師らの研究グループが最近開発し、実用化に向けて医師主導治験が進んでいる。

 また、血液の細胞を使って簡単に診断できるスクリーニングキットも開発中だ。「心臓移植を待つ難治性心疾患の中にTGCVが隠れている可能性があります。診断が極めて困難なTGCV患者の早期発見と治療に期待が持てます」と平野医師は話し、TGCVを一日も早く見つけることの重要性を強調している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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