背が低くても、悲観しないで
~子どもの個性と受け止めよう~
周りの子どもに比べて自分の子どもは身長が低い。この事に気付くと親は悩む。「低身長」の一部には希少・難治性疾患の一つとされるものもあるが、疾患が原因であることは少なく、治療にも限界がある。専門医や患者支援団体の関係者は「背が低いことはその人の個性の一部だ。悲観せず、人生を前向きに生きてほしい」と力を込める。
惠谷ゆり消化器・内分泌科主任部長
◇低身長の8割は体質
身長の相対的尺度には、標準偏差(SD)による方法が用いられ、「-2SD」以下だと低身長と定義される。平均的日本人の身長は男性が約170センチ、女性が160センチくらいだ。身長が低いとされるのは、男性が159~160センチくらい、女性が147センチくらいだが、小柄な人も普通にいるということを忘れたくない。
成長は乳幼児期、学童期、思春期の三つの時期の足し算で決まる。乳幼児期には栄養が、学童期には成長ホルモン、思春期には性ホルモンが重要な要素となる。
「低成長の原因は、成長ホルモン分泌不全性低身長症や、普通より小さな体で生まれて小柄な状態が続くSGA性低身長症などの疾患が原因のものもあるが、8割は体質によるものだ。さらに、父親と母親に体格の差がある場合、どちらに似ているかという要素も大きい」
大阪母子医療センターの惠谷ゆり消化器・内分泌科主任部長はこう指摘した上で、「小柄である事自体は悪い事ではない」と言う。
◇周囲の声に傷つく
成長ホルモンの皮下注射は週に6~7回必要だ。注射される子どもにも親にも負担は大きい。4~5歳で治療を開始するとして成長が続いている期間、長い場合は10年以上を要し、根気が要る。さらにハードルがある。治療しても治らないケースが圧倒的に多く、治療できるのは低身長児の1~2割にとどまるという。
「どうしてこんなに小柄なの」「私が悪いのかしら」―。悩む母親に、周囲からの「もっと食べさせたらどうなの」といった親戚や友人らのアドバイスが追い打ちをかける。惠谷主任部長は「決して母親のせいではない。子どもの個性と考えてほしい」と訴える。
◇食べ過ぎは駄目
「食べないと大きくならないよ」。身長が伸びない子どもを大きくしたいと思う親は、とにかくたくさん食べさせようとする。これは間接的に子どもを責めることになる。食べやすい分量を皿に盛り、子どもが食べたら、「よく食べたわね」と褒めてあげることが望ましい。
プロテインを摂取してトレーニングをし、筋肉を鍛える人たちもいる。しかし、たんぱく質を取れば背が伸びるわけではない。子どもは動きが活発で消費するエネルギーが多いので、炭水化物が必要だ。惠谷主任部長は「食事はたんぱく質と炭水化物をセットで。牛乳の飲み過ぎは鉄分欠乏を招く恐れもあり、良くない。サプリメントは基本的に必要ない」と言う。
発達障害のある子どもは興味の対象が狭く、食べることに偏よりやすい。成長が止まってからも食べ続け、体重が増え過ぎてしまう。こういう状況になると食事指導が難しくなる。「この子は食べることが好きなのだから」と家族は食べ物を与え過ぎる傾向がある。小さな時から食事の管理に気を配りたい。惠谷主任部長は「肥満が悪いのは腎機能障害などの合併症を引き起こすからだ」と注意喚起する。
「子どもの身長が低いことを受け止め、親がネガティブにならない。子どもに『これから良い事もいっぱいあるからね』と励まして育ててほしい」。惠谷主任部長のメッセージだ。
星川佳「ポプラの会」会長
◇社会に向けて発信
低身長の子どもや大人でつくる「ポプラの会」会長の星川佳さんは、自身も低身長症だが、エネルギッシュに活動に取り組んでいる。
76歳で134センチ。小学校入学時には88センチで、成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断された。成人してからも太りやすかったり、疲れやすかったり、ストレスを感じる事が多かったりする。現在も成長ホルモン製剤、甲状腺ホルモン薬と抗コレステロール薬を使用している。「会の最高齢者として、社会に病気の事を発信していきたい」と語る。
世界希少・難治性疾患の日にライトアップされた東京タワー
◇前向きに生きる
ポプラの会会員の声を紹介する。「11歳の男児は生まれた時に1860グラムで、通常は3000グラム程度なので小さい。3歳から成長ホルモンの治療を受けた。現在は144センチだ。両親も150センチ台と小柄だが、悲観的ではない。本人も担当医師から『5年後、160センチくらいになるよ』と言われ、安心している」という。
35歳の男性は幼少の時に脳腫瘍を発症した。足に障害があり、会話でのコミュニケーションに少したどたどしいところがある。障害者手帳を取得し、仕事をしている。星川会長は「いじめがあるようで心配している面もあるが、本人は精神的に強く、5年ほど勤めている」と期待をかける。
青年部を創設したのは50歳代の男性だ。医師から「男性ホルモンが出ていない」と言われ、男性機能を心配した。患者が中学生になると、医師は本人がいないところで家族と話すことが多い。会員には「直接、医師に訴えたい」と思う人も多い。内気で気の弱い人、友人が少なく、コンプレックスがある人。いじめられた体験がある人もいる。
45歳の女性は幼少時から成長ホルモン製剤を投与されてきた。女性ホルモンが欠如し、当初は妊娠・出産は無理だと言われたが、ある産婦人科医に巡り合ったことで変わる。2児の母となった。インターネットで同じ病気の女性が出産したことを知り、その女性に連絡を取り、同じ医師にかかった。星川さんは「子どもが欲しいという強い思いがあった。パートナーの協力と理解もあった」と語る。
星川さんは「世の中は変わり、医学も進歩した。40~50歳代の男性の『子どもができなくてもいいか』という申し出に、女性が『いいよ』と応じ、結婚した例もある」と紹介した。
2月28日は「世界希少・難治性疾患の日(RDD)」。2021年から東京タワーがライトアップされるのをはじめ、さまざまな啓発イベントが催されている。
(了)
(2022/05/02 05:00)
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