【ソウル時事】大学医学部の入学定員を増やす韓国政府の方針に反発し、研修医らが集団で職場を離れてから1カ月以上が経過した。抵抗を続ける研修医らに政府も譲らず、問題解決の見通しは立たない。医学部教授も25日に集団で辞表を出す構えで、混乱の長期化が予想される。
 研修医らは、政府が医師不足への対応として、医学部の入学定員を2025年度から2000人増やす方針に反対。約9000人の研修医が職場を離脱し、病院に戻ったのは一部にとどまる。政府は、職場放棄した研修医の医師免許を3カ月停止する手続きを進めている。
 医師側は、不足しているのは救急救命や産科などの診療科に限られるとして、急な増員は医療の質の低下を招くと主張。ただ、医師らの行動は「特権意識の表れだ」との指摘も出るなど、国民世論の支持は得られていないのが現状だ。研修医が去った後も病院に残る医学部教授らは25日に辞表を出して抗議の意思をアピールする一方、法定労働時間の週52時間以内で勤務を続ける方針で、医療態勢に大きな影響が出ないよう配慮も示している。
 政府が増員を強行する背景には、ソウルへの一極集中により、地方の医師不足が深刻化していることがある。政府は20日、2000人の増員枠の8割を首都圏以外の大学に配分すると発表。李周浩・社会副首相兼教育相は記者会見で「どの地域で暮らしても、国民誰もがレベルの高い医療を受け、命と健康を安全に守れるようになる」と強調した。
 しかし対立の影響をじかに受ける患者らからは、早期の解決を求める切実な声が上がる。自身も食道がん患者で、「韓国がん患者権益協議会」代表を務める金成柱さんは、19日の海外メディアとの記者会見で、がん患者の手術がキャンセルされるなどの影響が出ていると指摘。「私たちの命を担保にチキンゲームをしている」と、政府と医師双方を批判した。
 尹錫悦大統領は24日、韓悳洙首相に対し「医療関係者との建設的な協議体を構成し、対話を進めてほしい」と指示。強硬一辺倒の姿勢をやや軟化させた。4月10日に総選挙を控える中、対立の長期化で政府への批判の声が出始めていることを意識した対応とみられる。 (C)時事通信社