一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏
(最終回)仕事から趣味へ、シフトも全力=人生のリベンジ、幕下りるまで
2018年には70歳を迎える。引退の言葉が上山氏の頭をよぎるのは事実だ。しかし、視力は2.0で老眼もない。多くの外科医が視力の低下を理由に引退する中、上山氏にはそのきっかけもない。「老兵は死なず、ただ消え去るのみってマッカーサーじゃないけど、消え去ることもできないんだよね」と自嘲する。
「奥さんはいっぱい友達がいる。僕も釣りやラジコンの仲間をもう少し増やし、奥さんに置いていかれてもちゃんと仲間がいる状況にしないと。人に愛されずにイジけた僕が、最後また人に愛されないで終わりました、じゃあんまりでしょ」
人生をリタイアするのではなく、仕事から趣味にシフトするのだという。しかも真剣に全力で。今から約20年前、フライ・オブ・ザ・イヤーという日本一の毛鉤(ばり)コンテストで優勝したこともある。ラジコンの飛行機作りでも、すでにプロ顔負けの領域に達している。
「金属製に見えて世界一軽くて丈夫なラジコン飛行機を開発中です。しかもスケールスピードといって、ジャンボ機のようにゆったり飛ばすにはどうしたらいいか研究しています」
上山氏はジュラルミンのような金属感を持たせる表面加工を模索。その結果、ある工房で作られている雁皮紙(がんぴし)という手すき和紙にたどりついた。「この和紙を使えば世界が追随できないものができる。どうやって手に入れるか、紙メーカーと交渉中です」
飛行機のダクトを作るために真空成型機も使いこなす。飛行機に乗せるパイロットのヘルメットやマフラーの材料になる革はどうそいで薄くしたら良いのか、計器がガラスの向こうにあるように見せるためには、どんな材質が適しているか―探究は限りなく続く。
(2018/01/18 10:00)