一流の流儀 「海に挑むヨットマン 」 白石康次郎 海洋冒険家
(第4回)師へのあふれる思い
海の楽しさ、厳しさ
多田雄幸さんと白石康次郎さん(右)
水産高校では海で生きる厳しさを、多田雄幸さんからは海の楽しさを学んだ。
水産高校の教師にはよく頭をたたかれたという。「でも海の上では、ちょっとしたことがけがや、時には生死を分ける事態につながるのです。ですから、理詰めで教えられることも、また、状況によって先生が厳しく学生を指導することも仕方がないと思います」。
◇船上でサックス
一方、師匠の多田さんは天才肌の人だった。いきなり白石康次郎さんに舵を握らせ、海が荒れると、多田さんが手を差し伸べる。荒れが収まると、また白石さんが舵を握る。「多田さんは酒が好きで、僕が舵を握っている間は酒を飲みながら、趣味のサックスを吹いたりして楽しそうでした。『自分は自然に遊ばせてもらっている』のだから、つらいことも楽しいことも受け止めるという信念を持っていたのが多田さん。高校と多田さんの両方から学ぶことができて幸せでした」
神奈川県立三崎水産高校での厳しい訓練
大好きな多田さんの話になると、白石さんの表情はさらに楽しそうになる。
◇「束縛されるのが嫌」
ある時、2人で航海に出た。荒れ狂う海の上で、白石さんが何時間も舵を握っていて、さすがに疲れた。「すみません。舵をちょっと代わってもらえないでしょうか」と船室内をのぞいた。すると、多田さんは船が揺れる中、何事もないかのようにギョーザの皮を作っていた。「こんな荒海で黙々とギョーザを作っているなんて…。その背中を見て、この人にはかなわないと痛感しました。そして、『こんな男になりたい』と心の底から思ったものです。あの時の多田さんの姿は忘れられません」
師匠の多田さんについて少し紹介しておこう。旧制新潟高校時代から絵が好きで、その腕前は二科展で連続入賞するほどだった。「束縛されるのが嫌だ」という理由から家業の洋品卸商をやめて上京しタクシー運転手に。ヨットマンとしての多田さんの名前を一躍有名にしたのは、世界一周レースでの優勝だ。
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