非定型肺炎〔ひていけいはいえん〕

■マイコプラズマ肺炎
 マイコプラズマはウイルスではなく、細胞壁を欠く点では細菌とも異なった微生物です。ヒトからヒトへ飛沫(ひまつ)感染(せきやくしゃみによって飛び散った病原体を吸い込むことで感染すること)し、集団的な発生がみられます。10~30歳の比較的若い年代に発症することが多いといわれています。たんのない激しいせきと高熱がこの病気の特徴です。
 マイコプラズマに感染すると、肺だけではなく中耳炎髄膜炎、皮膚炎、貧血などさまざまな合併症を伴うことがあります。胸部X線検査ではすりガラス様のあわい陰影から濃い陰影まで多様な像を呈します。咽頭ぬぐい液による抗原検査が迅速診断に有用です。
 治療はペニシリンやセファロスポリン系抗菌薬が効かず、マクロライドやテトラサイクリン系の抗菌薬がよく効くのが特徴です。最近ではマクロライド耐性例がふえてきており、ニューキノロン系抗菌薬も使われます。

■レジオネラ肺炎
 レジオネラ菌は土壌、水中に生息しており、菌を吸引することによって感染するもので、ヒトからヒトへの感染はありません。わが国では温泉や24時間風呂での感染がよく知られています。喫煙者や高齢者の発症が多く、急激に症状が悪化するので注意が必要です。尿検査(尿中抗原)が診断に有用です。

■クラミドフィラ(クラミジア)肺炎
 クラミドフィラ(クラミジア)はオウムやインコなどの鳥類から感染するオウム病の原因菌として知られています。したがって、これらの動物に接触(飼育)していたかどうかが診断の手がかりともなります。高熱、激しいせき、頭痛、筋肉痛などがみられます。

■ニューモシスティス肺炎
 以前はニューモシスティス・カリニと呼ばれ、現在はニューモシスティス・イロベッチーが主となり、総称としてニューモシスティス肺炎といいます。今日では真菌(しんきん:カビ)に近い微生物と考えられています。エイズや多量の副腎皮質ステロイド薬の使用などにより、からだの抵抗力(免疫力)が低下した人に発症します。呼吸困難、たんを伴わないせき、発熱が特徴で、ST合剤やペンタミジン、アトバコンなどの抗菌薬を使用しますが、免疫力がいちじるしく低下している場合には治療が困難です。エイズ患者においては発症しないように予防的にST合剤などが使用されます。

■重症急性呼吸器症候群(SARS)
 かぜの原因ウイルスとして知られていたコロナウイルスの一型であるSARS(サーズ)コロナウイルスの感染による急性呼吸器症候群です。症状は38℃以上の発熱、せきやたん、呼吸困難などで、検査ではリンパ球や血小板の減少、LDH値の上昇、肺に異常影がみとめられます。確立した治療法はなく、症状の緩和を目的として抗菌薬療法がおこなわれます。潜伏期は2~10日、平均5日で、患者のいる地域を訪れた場合、患者あるいは患者と接した人と接した場合は、10日間ほど自分の体調に注意を払い、異常があれば外出を控え、まず電話などで専門医やかかりつけ医に相談することが大切です。

【参照】感染症:重症急性呼吸器症候群

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 佐藤 匡)
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